怪談!

コラム「怪談!」

 近年、怪談ブームが再来しているという。前回の怪談ブームといえば、ホラージャンルの映画や書籍が世にあふれかえった1990年代であるが、私が思うに今コロナ禍で誰もが家で過ごす時間が増えた結果、ユーチューブの視聴が盛んになっているのではないだろうか。
 というのも、怪談を生業(なりわい)とした怪談師の方々が、 ユーチューバーとして大量に怪談の動画をアップしているのである。いやはや人間とは不思議な生き物で、目に見えないものの存在にひかれるところがあるものだ。
 怪談というとオバケや心霊の類いの話と思われがちだが、近頃は「霊より生きてる人間が怖い」というテイストの「ヒトコワ」という怪談ジャンルも根強い人気があり、また心霊の類いを信じないが、あくまで仕事として怪談をしている怪談師もいると聞く。怖くてヒヤッとできればそれでいいという、そんな価値観がホラーにはあるのだろう。まさに恐怖とはイマジネーション。
 「俺には怖いものなんて何もないぜ!」と豪語する人に会うたび、「あなたの想像力どこいったの?」と逆に心配になる私。 心霊スポットの廃虚へ肝試しに行くにしても、仮にも大人ならそこで変質者やハブに遭遇するのを怖がっていいのに。と、つらつらと思うことを垂れ流してみたが、今回せっかく怪談について書いているので、最後に私の体験した不思議な話をひとつ。
 数年前の話。 友人がとあるスナックで働いていたので、私は時おりその店へ通っていた。 ある日そこの店で飲んでいると、いい感じに酔ったおじ様の客が入店してきた。ママがその客に「どこから流れてきたの?」と聞くと、「この店の2軒隣のビルのある店で飲んできた」と客は言う。なんでも若い女の子のスタッフがたくさんいて楽しい店だったという。
 するとママと友人は顔色を変えて「その店、数年前につぶれて今やってないよ」と言った。なんでも、そのつぶれたはずの店から流れてくる客がたまに来店するとのこと。私はそのおじ様の他に、後日、その店から流れてきたというもう1人の客に会った。
 気になった私はある日の昼、その件のビルのその階へ行ってみたところ、そのフロア全てがテナント不在ですっかり荒れ果てていた。
(2022年8月4日沖縄タイムス「唐獅子」にて発表)

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