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「当たり前」が通じなくなる社会で、どうやってマナーを伝えるのか。フェスが実験の場になったらいいな #フェスティバルウェルビーイング

2019年のフジロックが終わって2週間。7月29日が誕生日の僕は、ほぼ毎年、フジロックで誕生日を迎える。

今年も、仕事を終えて友達と合流すると、誕生日を祝ってくれた。いい感じに酔っ払い、段差から落ちて、足の付け根に大きなあざができた。あざはだいぶ引いてきたけど、未だに押すと痛い箇所がある。ちょっと腫れも残っている。大丈夫かな…

世界一クリーンなフェスはどこいった?と嘆く人、多し

さて、今年のフジロックが終わり、様々な人が感想を吐露している。目立つものは、ゴミが多い。イスの放置が多い。という意見だ。

去年も天候が悪くて大変だったけど、今年はものすごい大雨だった。フジロック史上最大レベルと言われるほどの雨量で、場内を流れる川は増水で恐ろしい音を立てて流れ、会場の一部冠水したほど。マナーよりもルールよりも、この雨をサバイブすることのほうが重要なのでは…と思ったりするけど、それはそれとして、たしかにマナーのなさは目立つ。

主催サイドでも、こういった問題には苦慮している。フジロックのウェブサイトを見てみよう。「フジロックとは」→「はじめに」と進んだページ、つまりフジロックのアイデンティティを示すページには、こうある。

2016年には記念すべき20回目の開催を迎えることができましたが、その一方で、近年は安定ゆえの“油断”が、会場内でのマナーの低下やゴミ問題となってあらわれています。

かつてフジロックは、海外のメディアから「世界一クリーンなフェス」と讃えられました。それは常に参加者とともに作って来たフジロックを象徴するキャッチフレーズであり、みなさんひとりひとりの協力によって実現した素晴らしい成果でした。

今一度、初心にかえって、私たちのフジロックを再び作り上げましょう。

その下には、マナー啓発を訴えるテキストと動画が掲載されている。

そもそも、フジロックは世界一クリーンなフェスなのか?

フジロックは、世界一クリーンなフェスティバルだと言われてきた。それは、ただ自称しているわけではなく、リサーチ会社による世界的な格付けでも、自然環境への配慮が評価されている。

コーチェラとグラストンベリーの2つのフェスティバルは世界の重要音楽フェスティバルを格付けする「Festival250」の1位と2位に選ばれた。3位には日本のフジロック・フェスティバルが選出された。

Festival250はイギリスの音楽業界のリサーチ企業Festival Insightsと市場調査企業CGA Strategyの共同プロジェクトで、今年9月に第一回のランキングを発表した。世界の音楽フェスティバルを網羅するこのランキングは、2015年の観客動員数や会場の規模、チケット売上等を総合的に評価して格付けを行ない、各フェスの特徴を記している。

環境への取り組みが評価

フジロックについてFestival250は、1997年の富士天神山スキー場での第一回で台風が直撃し、後半の日程がキャンセルになったことや、その後新潟県苗場に会場を移して運営を続行中であるといった歴史を手短に解説。

木々に囲まれた環境の中で「自分のことは自分で」「助け合い・譲り合い」「自然を敬う」をスローガンに掲げ、環境保護への取り組みを続けつつ、グローバルレベルのアーティストらを招聘し、観客らを魅了し続けている点を評価したとしている。

https://forbesjapan.com/articles/detail/14452%C2%A0 より

フジロックが世界一クリーンだと言われている所以としては、ごみを「拾う」のではなく、ごみを捨てさせないように「会話」する、ゴミステーションのボランティアスタッフを束ねるNPO法人iPledgeたちの存在も大きい。

もともと、同団体はごみを拾う活動をしていたが、それだけでは問題は改善しないと気付いた。ボランティアだけが動いても限界があり、フェス参加者の意識を変えて、参加型のイベントにすることが必要だと考えた。この考えから、コミュニケーションで、ごみ分別を促す仕組みが生まれた。

http://olive.bz/art/mix/e3f54eeb5b9b5f89db38857c2e303085?genck=1より

僕は今年の6月、フジロックのモデルになった世界最大級のフェス、グラストンベリーフェステイバルに行ったのだけど、ゴミの多さに驚いた。行った人やメディアの情報から「ゴミがひどい」と聞いていたけど、想像以上だった。

さすがにこの状況が毎日累積したら、本当にゴミだらけになってしまう。毎朝、スタッフさんがゴミ拾いして、広大なスペースがけっこうきれいになる。いやぁ、すごいなぁと思いつつ、二度手間だよねと思いつつ、微妙な心…。

フジロックが本当に世界一クリーンかどうかは実証できないが、基本的には来場者、つまり「フジロッカーズ」たちはマナーを守り、世界一クリーンであることを誇りにしてきた。

グラストンベリーは別の方向で、強い環境配慮のメッセージを出している。毎年100万本にもなるペットボトルの販売が禁止されたのだ。

今年の夏に英国の野外音楽フェスティバル「グラストンベリー・フェスティバル」に向かう人は、飲み水を入れるマイボトルを持参する必要がある。50年近い歴史を誇る同フェスティバルは今年初めて、会場内でプラスチック製ボトル入り飲料の販売を禁止する。

共同オーガナイザーのEmily Eavisはこう話した。「環境の保全こそが最優先されるべきだ。今年のグラストンベリーで100万本ものプラスチックボトルの使用を削減できることに、エキサイトしている。フェスに参加する全ての人々が、自分の行動を少し変えるだけで、世界に変化を与えられることを自覚してほしい」

https://forbesjapan.com/articles/detail/26231 より

プラスチックフリーに向けて大きく舵を切ろうとしている、ヨーロッパらしい取り組みで、素晴らしいと思う。

フジロックで起きているのは、ハイコンテクスト時代から、ローコンテクスト時代へのシフト

世界一クリーンだったフェスが、なぜ最近になってゴミが多いと言われているのか。イスの放置が問題になっているのか。

それは「暗黙の了解」や「マナー」が通じていたハイコンテクストな場から、ローコンテクストな場へのシフトが起きているからではないか。

ローコンテクストとは、コミュニケーションや意思疎通を図る際に前提となる文脈や価値観が少なく、より言語に依存してコミュニケーションが行われること。「ローコンテクスト文化」や「ローコンテクストな社会」などとして使われる。

言語で表現された内容が高い価値を有する傾向にあり、思考力や表現力、論理的な説明能力やディベート力といったコミュニケーションに関する能力が重視される。欧米を中心とした移民国家に多い。

ローコンテクストに対して、前提となる文脈の共有が多く「以心伝心」でコミュニケーションが行われることを「ハイコンテクスト」という。「ハイ」と「ロー」という表現を用いるが、優劣を表すものではない。

https://makitani.net/shimauma/low-context より

フジロックの来場者は「フジロッカーズ」と呼ばれている。フジロックの来場者は、フジロッカーズであることに誇りを持ってきた。フジロックを愛する人たちのコミュニティとしてスタートした fujirockers.org というフジロック公式のファンサイトがあるくらい。

実際、過酷な自然環境でも、タフに楽しめるフジロッカーズたちに、フェス自体が何回も助けられてきたはずだ。

日曜の朝、普通に開場して、キャンプサイトもシャトルバスなども何事もなかったように動いていて皆さんが入場ゲートへ向かっている。その光景を見て、すごいなあって思いました。僕らも成長してるし、来場者の方たちもものすごい成長していて、タフになってるんだなって。全然平気なんだなって(笑)。

https://www.barks.jp/news/?id=1000168662&page=3 より

しかし、今やフジロッカーズは一枚岩ではない。この2〜3年で、海外からの来場者がグッと増えた。そして、野外フェスがサブカルチャーからメインカルチャーへと移っていく中、「フジロッカーズ」だけでなく、ごくごく普通の人が来場するようになっていてる。

こういった問題は、フジロックだけの話ではない。僕たちが住む街でも、僕たちが住む国でも、僕たちが住んでいない外国でも、広く起きている事象だ。

インターネットが情報の垣根を取っ払い、人々は多様な価値観を持つようになり「当たり前」が通じなくなる世界は、すでに目の前に広がっている。

ローコンテクスト時代にはWHYを根気よく伝えなければならない

そんなローコンテクストにおいて、マナーを伝えるには、WHYが大事だ。なぜゴミを捨ててはいけないのか、なぜイスを放置してはいけないのか、説明しなければいけない。「当たり前」が、一人ひとり違うからだ。

「言われなくてもわかるだろう」と思い込みは捨てて、丁寧にWHYを説明する。考え方も、大切なものも、育ってきた環境も違うからだ。

そんな目線で、フジロックのマナー啓発を見てみると、WHYをほとんど説明してないことに気づく。

日本は、ヨーロッパやアメリカのような、人種や宗教の多様性を自覚する場面が少なく、WHYの説明にあまり労力を割かない傾向がある。それだと、ローコンテクストな時代においてはコミュニケーションロスが多くなってしまうだろう。

グラストンベリーを最終目的地としたヨーロッパの旅で訪れたアムステルダム。マリファナと売春が合法なくらいで、とにかく様々な価値観を受け入れる懐の大きさがある国だ。泊まっていたAirbnbのオーナーのJRからは、様々なWHYを投げかけられた。

なんでシンタローはタトゥーをしていないのか。なんで結婚してないのか。なんでタバコを吸わないのか。なんでノースフェイスのギアばっかり持っているのか。

こうやって、相手にWHYを聞いていくことで、相手を理解しようとしているのだろう。

ローコンテクストな時代のコミュニケーションを、フェスで実験する

世界には、昨日までの常識が、明日の非常識になるような大きな変化が訪れている。国、都道府県といった単位は早すぎる変化にはなかなかついていけない。

もっと小さな範囲での実験が必要になる。そんな役割をフェスは果たせるのではないか、というnoteを先日書いた。

なぜゴミを捨ててはいけないか、なぜイスを放置してはいけないか、こんな簡単なことですら、通じない現状にヤキモキする気持ちは、とてもわかる。ただ、実際に通じないのだから、しょうがない。

限られた人、場所、時間だからこそ、実験は比較的手軽なはずだ。ここまで言うなら、自分がなんかやれよって言われそうだな。うん、そうですよね。

ちなみに、最後だけど、フジロック大好きです。きっと来年も行くよ。

<更新 2020 / 1/31>  「WHY」が説明されている!

2020年のフジロックに向けてウェブサイトが更新。「WHY」がしっかりと説明されています。このnoteが届いたのかどうか、分からないけど、何にせよ良かった!

会場内持ち込み禁止物

組立式X型アウトドアチェア(ヘリノックス等)
折りたたまずに持ち運ぶ方が多く、フレームの突起部が他の来場者にぶつかり大変危険です。


キャンプサイトを含む全てのエリアで使用禁止です。視界が悪くなり突起部が大変危険です。また悪天候時には風で飛ばされ危険です。

多くのスペースを占有するシートや設置物・視界を遮る設置物等
《対象となる物》
・ブルーシート他、利用人数に見合わないスペースを要する敷物
・タープ・パラソル・サンシェード・テント(キャンプサイト除く)その他、視界を遮る設置物
混雑を招く要素となる他、持ち運びが困難なため放置されることが多く、結果ゴミになってしまい、他の来場者の迷惑となります。(会場内でスペースを占有することはお断り致します。)

https://www.fujirockfestival.com/news/news004

やっぱり好きです、フジロック。

将来的に「フェスティバルウェルビーイング」の本を書きたいと思っています。そのために、いろんなフェスに行ってみたい。いろんな音楽に触れてみたい。いろんな本を読みたい。そんな将来に向けての資金にさせていただきます。