夏川晋太郎(シンタロール)

真面目だったり不真面目だったりするゲイ小説などを書いてます(過去の記事は電子書籍発売時…

夏川晋太郎(シンタロール)

真面目だったり不真面目だったりするゲイ小説などを書いてます(過去の記事は電子書籍発売時に取り下げる可能性があります🙇‍♂️) https://linktr.ee/shintarawl

最近の記事

短編『犬系人狼の恋人と彼の鼻風邪』

 ついに恐れていたことが起きてしまった。忠芳が──付き合って二年ほどになる俺の恋人が、なんと、風邪をひいて寝込んでしまったというのだ。 『だーからあ。そんなに心配なら、お見舞いとか要らんてよおー』  スマホ越しの間延びした鼻声に、思わず俺はうめいてしまう。 「いやっ、でも…………お前のことだって心配なんだよ! お前んちの冷蔵庫、ろくなもん入ってないし。木曜から寝込んでるってことはもう三日目だよな? 食事もだけど洗濯とかいろいろ気になるよ。それに──人狼って風邪には慣れてない

    • 掌編集『Super Short Stories』告知

      2020年からチマチマ書いてきた習作掌編をまとめた電子書籍が発売になりましたー!40作収録の本を2冊同時にリリースしております。もしよろしければお買い求めいただけますとたいへん嬉しいです。 なお、電子書籍の発売に伴って一部の作品をnoteから取り下げております(全体の10%までしか無料公開ができないというルールがあるため)。ちょっと悲しいのですが、該当作品に関しては読みやすくまとまったパッケージでお楽しみいただけましたらと……! その他、過去の作品は ↓↓ でお求めいただ

      • 掌編『永遠を誓わない』

         俺がこの結婚式に参列することになったのは、遂に日本でも同性婚が可能になったこと、そして、白瀬と黒田のふたりと親友だったことがその理由だ。ふたりは高校のラクロス部の同期で、実は付き合ってるんだと俺が打ち明けられたのが大学一年のときで、とにかく彼らは交際して既に十六年になるのだった。式とか別にいいよ……とふたりは乗り気でなかったのだが、黒田のご両親が「小さな式ぐらいやりなさい。本当に大事な人だけ呼んで、本当に大事なのだとしつこく伝えなさい」と強引に話を進めてしまった、らしい。そ

        • 未発表掌編 『fatalism(甘い運命)』(2023.12)

           年末に旧い友人と食事をした。忘年会、と普通はいうのだろうが、俺と彼とは年イチで会うかどうかの距離感だから、感覚としてはただの会食ないしはサシ飲みだ。ともあれ、これはそのときの話である。何の気なしに俺は言った。それにしても、今年は本当にたくさんの人が死んだよな、と。 「まあ、単に俺らも歳を食ったって話なんだろうが。無数の巨星が墜ちた、という感覚が俺にはあるけど、若い連中からすれば『誰?』って感じだろうしな」  人死に。俺の念頭にあったのは著名人ばかりではなかったが、旧交を温め

        短編『犬系人狼の恋人と彼の鼻風邪』

          掌編『ジシリスク』

           そのモンスターが現れたのは十四歳のある日だった。現れたというよりは、その存在に気づいたとする方が正確かもしれないが。彼は(便宜的にそう呼ぶが、英語圏のように They 的な人称代名詞があれば僕はそちらを用いると思う)あらかじめそこにいた。僕のそばに。十四歳のある日、ただ、僕はその事実に気づいたのだ。 「君は何」と、僕は訊いた。 「ジシリスクです」と、彼は答えた。 「────自死リスク?」 「はい」と、彼はうなずいた。「私はあなたのジシリスク、すなわち将来的に自ら命を絶ってし

          掌編『遍在(いないし、いる)』

           死ぬのは怖いし不死も怖い。じゃあ、どうすればいいのか。  この問題について考えるたび、幼い頃の僕は泣きべそをかいた。死ぬのが怖い、これは自分が無になること、その無が永遠に続くことへの恐怖だった。不死への恐怖はその逆だ。こうして思考する自分が永遠に在り続けるのだって、恐ろしい。 「理不尽だ、と思ったんだよね。当時はそんな語彙を持ってなかったけれど。生まれた時点で死は避けられない。それって怖い。なのに、不死者になる想像も怖い。生まれてこなかったら──って想像も結局は死を想うのに

          掌編『遍在(いないし、いる)』

          短編『ファリピとパリピ』

           ────さて。この大きな図体の迷子を、この人間をいかに扱ったものか。  ソファに座した青年を見下ろし、俺は腕組みした。座した、といっても彼はソファに体を埋めたり腰を浮かせたり、視線を彷徨わせつつ矢継ぎ早に質問を投げてきたりで、まるで落ち着きがない。その質問の内容はというと、具体的にはこんなものだ。 「ねえねえ、ここってVIPルームっすか? これはお金持ちのコスプレパーティー? お兄さんは黒服スーツの狼男コスで遊びにきたの? うへへっ、もしかして俺ってちょーっと酔ってます

          短編『ファリピとパリピ』

          掌編『アンチ・クリスマス同盟』

          「ったく、ついに二人きりになっちまったな」  咥え煙草でこぼす赤木の斜向かい、だな、と緑川は短く応じた。いつかはこんな日が来るだろう、そう思ってはいたが、予想よりもずっと早かった。  最初は六人だった。六人が四人になり、四人が三人になった。去年はまだ白井がいた。俺ら三人で踏ん張ろうぜ、と力強く言った白井もしかし、今やもういない。冷たい風が吹き、緑川はわずかに肩を窄めた────  と、ここで早めに明示しておくが、生死の関係する話ではないし、デビュー十年目のアイドルグループの会話

          掌編『アンチ・クリスマス同盟』

          未発表掌編 『星を守る犬々』(2023.5)

          【犬が星を守る】──ことわざ。犬が星から目を離さずに見ていても、星が示す意味を知り得ぬように、卑しい者が及ばぬ望みをかけること。高望み。  犬を用いた語、慣用句のたぐいが総じてネガティブなのは我々にとって単なる常識で、まあ、それ以上でも以下でもないのだが、件のことわざに関してだけは鼻を鳴らしたいような感じを誘われなくもない。ヒトの目でヒトの世を捉えたヒトの語だから、犬からすれば誤謬に満ちているのは当然で、原則的に我々は関知しない──そう決まっているにもかかわらず、ううむ、何

          未発表掌編 『星を守る犬々』(2023.5)

          未発表掌編『彼思うゆえに我あり』(2022.2)

           昼休みのドトールで新入社員の後輩が何やら悩んでいる風だったので、三年目の俺は先輩ぶって声をかけた。すると後輩はションボリと言った。その……自分はいま「他己紹介」ってやつに悩んでるんす。  ははーん、と俺は思った。研修のグループワークとかであるよね、隣の人を紹介してください、みたいなそういう。ははーん。確かにアレってちょっと難しいよね。  しかし、後輩は「違うんす」と下唇をひん曲げた。 「就活でやらされた『他己分析』ならギリわかるんす。ヘンな日本語だなーとは思うんすけど、他者

          未発表掌編『彼思うゆえに我あり』(2022.2)

          未発表掌編 『ダンスフロアの幽霊』(2022.2)

           一般的に、幽霊が出るにはふさわしい場所というものがあって、ダンスフロアはその対極だと思うのだけど、彼は、そこにいる。いわゆる地縛霊ってやつらしく、クラブからは出られないけどラウンジへの移動とかはできるようで、僕はそこで彼とよく話してる。なぜって僕はそこのバーテンで、バーには隙間時間みたいなものも生じるから。それに、彼のことを正しく認識してるのは僕だけだし、彼──ダンスフロアの幽霊はもう三年もここにいるっていうんだから、相手をしないとさすがに可哀想じゃないか。    二ヶ月前

          未発表掌編 『ダンスフロアの幽霊』(2022.2)

          未発表掌編 『野営戦隊ヤガイレジャー』(2023.5)

          「野営戦隊ヤガイレジャー、っすか……」  おれは困惑した。それが来春に始まる特撮ヒーロー、いわゆる戦隊ものシリーズの最新作に決まってしまったらしいのだ。 「いやその、大丈夫なんすかね? 確かに今ってアウトドア人気はありますし、近年の戦隊ものは自由度が高まってはいますけど、なんていうか、さすがに子供向けのモチーフとは言えないような」  爆走戦隊バクソウジャー世代のおれとしては、もっとわかりやすいモチーフが好みだし、じっさいその方がウケる気がする。のだけれど、プロデューサーの大谷

          未発表掌編 『野営戦隊ヤガイレジャー』(2023.5)

          掌編『nocturne』

          「──それで、どんな香りをご希望ですか。シートの設問から進めてくかたちもありだけど、このままカウンセリングする方がたぶんいいと思うよ」  対座する青年のことばに俺は少し、いや、かなり困った。もともと香水にはまるで縁がなく、正直に言うと興味もなかったのだ。「俺からの誕生日プレゼントだよ」と、恋人が勝手に予約を入れてしまい、それで、俺は今ここにいる。神奈川県は大和市にある小さな平屋、いわゆる米軍住宅をリノベーションしたとおぼしき建物で、香水工房というよりは無骨なカフェか何かのよ

          掌編 『互いにもう死んでいる』

           三年前に死んだ戸田の幽霊と遭遇して死ぬほどビックリした。  のだが、戸田の幽霊も「ええっ、宮城の幽霊!?」と驚いてるので、動揺した。お互いペタペタ触って体があるのを確認すると、うわーとさらに驚き、うわーんと抱き合って泣いた。だって、二度と会えないと思ってた戸田に会えたのだ。どういうことかはわからないが、この海で溺れた──おれの代わりに溺れた戸田が、俺と同じ十九歳の姿になって現れたのだ。  そう、あれは三年前の今日だった。同学年の七人ぐらいでおれらは泳いでて、おれと戸田は一緒

          掌編 『互いにもう死んでいる』

          未発表掌編 『その十年が過ぎました』(2023.5)

           十年たってもお互い独り身だったら結婚するか、なんて三文ドラマじみた約束をしたのは二十三歳の冬だった。もちろん本気だったわけではないのだが、完全に冗談ってわけでもなかった、というのがこの話のミソだ。十年先だなんてほとんど現実味がなく、だけど実際にそんな未来が来たならマジで結婚するのもアリかもな、みたいな感覚を抱けるぐらいには、俺らは唯一無二の親友だったし、唯一無二の腐れ縁であり続けた。 「──で、その十年が過ぎたわけだが」と、俺は言った。 「できねえなあ、結婚」向かいの河北

          未発表掌編 『その十年が過ぎました』(2023.5)

          未発表掌編 『愛について(Men in Pink)』(2023.2)

           俺らが男同士でラブホに泊まることになったのには理由があって、それは予期せぬ暴風と豪雨だった。テントとかタープとかがグジャグジャになって、キャンプ場の俺らは大笑いしたのち泣きベソをかいた。で、近隣にあったここへ逃げ込んだ。昭和の香りがただようチープなラブホで、といっても俺らは昭和を知らないからそれは単に古いって意味だけど、とにかくここしかなかったのだ。メン・イン・ピンク。それも、ロココ調だか何だかの柄にまみれたクソうるせえピンク。どうかしてるぜ!! 俺らは大笑いしたのち各々シ

          未発表掌編 『愛について(Men in Pink)』(2023.2)