新規就農の苦悩 〜ビニールハウス編〜 #12
次に頭を悩ませたのが、農業用ビニールハウス(以下、ハウス)の問題でした。
ハウスには大小さまざまなサイズがありますが、基本的には鋼管のパイプに被覆材としてビニールのフィルムが貼られている農業施設です。この中で、野菜などの作物を栽培したり、作物の苗を育苗したりしています。このハウスは本当に優れた機能を持っていて、これが1棟あるだけでやれることの幅がぐんっと広がります。
ハウスを持つメリットとしては、
①雨風をしのいで、天候の影響を受けずに作物が栽培できる
②外からの虫の侵入を防ぎ、病害虫から作物を守ることができる
③中が暖かいので、露地の作物よりも早く成長し収穫することができる
④雪が降る冬場も作物を栽培することができる
が挙げられます。
山形においては、④が一番重要かもしれません。冬場は雪に閉ざされ、露地での野菜栽培が困難な山形県。このハウスさえあれば、どんなに雪が降ろうとも栽培を続けることができます。
さらに、野菜農家において大事な作業のひとつが、育苗です。夏野菜の苗を自ら育て適期に植え付けようと思うと、そのスタートはおおよそ3月。一番デリケートな状態の苗を、霜や寒さから守りながら育てるためにはハウスは必須なのです。
このハウスがどうしても欲しい!冬場にほうれん草や小松菜を栽培したいし、春先の育苗にも使いたい!!しかし、私がハウスを手に入れるためには次の大きな問題がありました。それは、【建設費用が高額】と【建てられる土地が無い】でした。
まず、費用について。
資材業者に確認したところ、7.2m×50mのハウスを建てようと思うと、現在の相場は工賃込みで約250万円。いまの私にはハウスだけにそれだけの経費をかけられるほどの金銭的余裕はありません。
そして、建てる土地について。
祖父の農地は丘陵地で傾斜になっているため、ハウスを建てるのには不向きでした。また、仮に第三者からお借りした土地に建てた場合、もしその後その土地の返却を求められたらハウスは解体しなければなりません。さらに、返してくれと言われなくても、借りた土地が使ってみたら土質が悪く使いものにならない場合もあります。
以上の状況を鑑みると、250万円を払って建てるには、あまりにもリスクがありすぎる状況でした。
そこで、私はハウスを自ら建てるのではなく、すでに地域にあるものをお借りできないか相談することにしたのです。
ここで力になってくださったのが、農業委員の佐藤さん(通称、やっさん)でした。農業委員とは各地域毎に取りまとめを行っている農家の代表者で、困ったことがあれば相談に乗ってくれる、新規就農者からすれば力強く頼りになる味方なのです。
そんな農業委員のやっさんが地域の農家の方々に聞き込みをしてくれて、ほうぼう探し回って下さったのですが、やはりこちらもなかなか簡単には見つかりません。
「貸すんじゃなくて、売るんならいいけどよぉ」とか、
「もう何もすねし使わねけど、おれは誰さも貸さねぇ」などなど。
ずいぶんと探し回って下さいましたが、とうとうハウスを借りることはできませんでした。
諦めかけていたそんな時、ひょんなことから使わなくなったハウスのパイプの骨組みを持っていっていいよ、という地域の方が現れたのです。
サイズが小さめなので、家の庭の空きスペースに建てられそうな大きさ。捨てる神あれば、拾う神あり。ということで、それを解体させていただいて、家の隣に移築することにしました。
当面はこの小さなハウスで乗り切り、経営が軌道に乗ったら満を持して大きなハウスを建てられるようにしたいと思っています。
なかなか自分の思い通りにはいかない就農準備。しかしその中で、地域の方々の優しさや繋がりに本当に助けられたと感じました。コロナ禍も経てどんどん希薄になっていく人や地域との繋がりですが、私はこれから農村に生きる上でこれらの繋がりを大事にしていきたいと思っています。
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