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お巡りさんが間違ってるのに[エッセイ]

もう30年以上前の話。

当時19歳だった私の移動手段は原付だった。車の免許を取得するまでのつなぎではあったけれど、自宅付近の山道を自転車で苦労して登っていた頃と比べてとても楽で嬉しかったのを覚えている。

ある日、私はいつものように原付で買い物へ行った。その日行ったお店はT字の交差点の角にあり、お店の横にある駐輪スペースに原付を停めてお店に入った。
買い物を終え、その駐輪スペースから右折して道路に出た瞬間、ウウーーとサイレンが鳴り
「そこの原付、止まってください」
と言われたかと思うと白バイに行く手を阻まれた。
(え?私?何かした?)
驚く私にお巡りさんは
「あなた今、向こうから走って来て右折しましたよね?ここは右折禁止ですよ。」
と言った。私は
「今、そこのお店で買い物してそのお店から右折しました。」
と本当のことを言った。それなのにお巡りさんは
「嘘言っちゃダメだよ。僕はちゃーんと見てたから。あなたは向こうから走って来て右折しました。」
と自信満々で言った。
(このお巡りさん何言ってんだ?何見てたんだ?)
頭の中でそう呟きつつもう一度
「今そこのお店から出てきたところです。」
と言った。
「あなたは向こうから走って来てここを右折してました。僕は見てました。」
お巡りさんは繰り返した。
(怖っ!お巡りさんは何見えてたんだ?)
そう思っても、生まれて初めてお巡りさんに止められて、テンパって心臓バクバクの私はそれ以上何も言うことが出来なかった。そしてお巡りさんは
「仕方ないから今回は大目に見てあげるからこれに署名して。」
と警告書を出した。違反切符は切られなかったが、署名をさせられた。

お巡りさんが行ってしまった後、私はまだ高鳴っている鼓動を感じながら怒りが込み上げてきた。
(違うって言ってんじゃん!何にも見てないくせに!お店の人に確認すればいいじゃん!何でそんなに自信満々に言い切るんだよ!)
私の怒りはしばらく続いた。とても悔しかった。署名してしまった自分にも腹が立った。

普段、警察に縁がない人が突然お巡りさんに声をかけられると、テンパって挙動不審になったり言いたいことが言えなくなったりするものだと実感した出来事だった。とにかくお巡りさんが言ってることが絶対だと押し付けられた。

時代は違うけれど、冤罪もこうして生まれるのかもしれないと感じた出来事だった。

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