しんすけの読書日記『カインの末裔』
本書は、有島武郎の作品の真価を知る発端となった作品である。二十代前半までは有島武郎を白樺派の一員として読むことを拒否していた。
白樺派の作品を拒否していた理由は、『一房の葡萄』の感想にも書いている。
いきなりだが『カインの末裔』の衝撃的な場面を以下に引用する。
彼れはいきなり女に飛びかかって、
所きらわず殴ったり足蹴にしたりした。
女は痛いといいつづけながらも彼れにからまりついた。
そして噛みついた。
その後、女はいったん逃げる。だが男が追いかけようとすると、
反対に抱きついてきた。
これは耽美派の描く世界そのものでないか。武者小路は当然、志賀直哉も描くことが不可能な世界だ。
人間は、何派なんて区別で切りるような存在ではない。
ぼく自身も学者肌の世間知らずと云われた時期がある。それは内実を把握しでの発言ではない。
世間知らずは事実かもしれないが、日本という国がジェンダー差別が甚だしいことに気づきはじめた二十代半ばで本書を読んだ意義は深い。
広岡仁右衛門だけがカインの末裔でないように、日本全体が末裔の集まりに観えただと思う。
仁右衛門を憎む者も、憎まれる者である。それが人間というものだからだ。
阻害される仁右衛門を浮き彫りしながらも、有島武郎は人類問題として聖書の難題を読者に投げつけてきた。
それが二十代半ばでの読後感だったはずだ。
そして今、二十代半ばでは諦めてはいなかった人類平等が観えなくなったことを感じながら本書を読んでいる。
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