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夏 第451回 『魅惑の魂』第2巻第3部第131回

 それから昼になって昼食をとるために母が戻ってきたとき、少年はその断片に書かれていたこと読み返し、午前中をかけてすべて写し取っていた。そして敗れた断片は封筒に入れて自分の胸元に隠しておいた。だが少年はそのことを、母には一言も口にはしなかった。彼の部屋に母が入って来ても机に向かったままで、立ち上がりもせず、彼女に顔を向けることもしなかった。彼の中では知りたい欲望が大きくはなっていたが、それがさらに盛んに燃え高まるほど、なぜか彼の動作はぎこちなくなってしまった。その当惑すら無意識のうちに彼の仮面の下に隠されてしまった… もしあの悲愴の言葉がアネットのものでなかったら! その疑いは、母のいつもと変わらない穏やかな顔を前にするたびに戻ってきていた… それにもかかわらず、それを否定するものも依然として強く残って消えることもなかった… もし彼女が書いたものだったとしたら?… この目の前の女、彼の母親だったとしたら?… 食卓で彼女を目前にしながらも、彼は彼女を見る勇気を無くしていた… だが彼女が背を向けて料理を取りに行って運んだりしている段になると、彼は好奇の目で貪るようにそれを見つめて、何かを獲ようとするかのようになっていた。見つめた目は尋ねていた。
「あなたはいったい誰ですか?」
 彼は混乱していた、魅惑されるものがあった、不安な気持ちもあったが、その印象は不鮮明でもあった。そしてアネットはマルクのことは何も気づきはしなかった。今の彼女は、確信を持つことになった自分の新しい生に満ち足りていた。

つづく

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