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夏 第416回 『魅惑の魂』第2巻第3部第96回

 フィリップがアネットが戻ってきたことを知るには、時間はかからなかった。彼女が一人で家にいるはずの時間に彼女に会うことを、彼は考えた。しかしアネットはそれを警戒していた。彼はそのドアが、いつも閉じられていることを気づかされた。憤りが生まれた、それに今では他の気晴らしも増えたにはずなのだが、アネットを思う彼の情熱が衰えることもなかった。アネットの抵抗は彼は激怒させたが、それで簡単に引き下がるような男ではなかった…
 アネットが街に出たとき、数歩先で彼を見かけた。彼女は青くなったが、彼を避けはしなかった。二人は互いに近づいた。彼は決心したよう言った。
「あなたはこれから帰るところですね。ぼくも一緒に行くことにします」
「いいえ」と彼女は応えた。
 彼女は教会の近くの公園に彼と一緒に入ていった。ほこりに塗れた木々が街通行人たちから二人を少しだけ隠すことになった。彼らは自分を抑えなければならなかった。彼は厳しい言葉を呟いた。
「あなたはぼくが怖いみたいだね」
「いいえ」と彼女は言った。「わたし自身が…」
 フィリップの情熱が燃え憤ってさらに燃えた。だがアネットの眼が、彼の厳しい視線を避けないことに気付いた、そこに彼はアネットの中に閉じこめられた苦悩の存在を読みとった。彼の怒りは消えた。彼は穏やかになって尋ねた。
「どうして逃げたりしたんですか?」
「いまのままでは、あなたはわたしを殺すでしょう」

つづく

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