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夏 第193回 『魅惑の魂』第2巻第2部

 こうして自分を納得させたつもりでいたはずだが、この数か月は彼女の喉もとを苦痛が締め付けてきていた。
「わたしは命を亡くしかけているのでは、たとえ生きていても…」
 こんなときに、あのマルセル・フランクが再び姿を見せていた。偶然が彼をアネットの道に誘いこんでいた。彼はもう彼女のことを、あの時ほど思ってはいなかったが、彼女を忘れてもいなかった。あれから彼は、多くのロマンスを体験していた。しかし彼のしなやかな心には、それらの痕跡はたいしては残されてはいなかった。眼の周りには、細い爪痕のように観えるいくつかの軽い皺が残っていた。そこにはある種の疲労も観えるが、人を征服するかのような愛情と侮蔑も混じっていた。アネットに再び会った瞬間に彼は、かつての感覚の新鮮な確信を見つけていた。それが不思議なことに、この人生にすねてしまった懐疑論者を引き付けていた。彼は彼女を探るように見つめていた。彼女も苦労の国を訪問していたようだ! 彼女の眼の奥には、沈んだ光、航跡、難破船が点在していた。それでも彼女は,いっそうに穏やかで自信を持っているように落ち着いて見えていた。彼は思い起こしていた。すでに二度も彼女を取り逃してしまったことを。これほどに健全な伴侶に相応しい相手を逃したことに後悔さえが戻ってきていた。まだ遅くなんかないじゃないないか! この二人がこれほどに深く親密になりそうなのは、初めてではなかったか。

つづく


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