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母と息子 第9回『魅惑の魂』第3巻第1部 第9回

 カイユーの家はアネットの上の階だった。下の階はベルナルディン家が住んでいる。父親、母親、二人の息子、二人の娘がいた。この家はカトリック教徒で王党派で、ミディ・アキテーヌの出身だった。
 父親は判事だった。小柄だが頑丈な身体の男で、猪を想像させるくらいに毛深くて、短く濃いひげが顔を覆っている。彼は元気で楽観的な男だが、すぐに熱くなるたちだった。それは生まれが田舎者で、陽気になる性分だったからだろう。この都会では窒息してしまい、それで腹が溜まった空気で敗れるかもしれなかった。食べることもとても好きで、食べながらもガリア人風に快活な笑い声を立てていた。そして少しでも気に喰わないことがあると、この老猪はそれに向かって突進すするが、途中で息が切れてしまい、地団太を踏むのだった。その発作のような動きも老木では長くは続けられない。そうして彼は今の自分に仕事のことを考えては、告白することまでも考えこんでしまう。ぶつぶつと呻いている最中でも、自分を抑圧することと、穏やかで感動させるものを探すのだった。
 二人の息子のうちの、下のほうは二十二歳でシャルトに入学したばかりだった。彼は、十六世紀末に流行ったある雰囲気を持っていた。小さな尖ったあご髭を蓄え、細りして笑顔は鋭いが、眼は疲れたように曖昧なものを思わせた。彼は実に良い青年なのだが、デペルノン侯爵配下の寵臣のような背徳的な雰囲気を持ちたいとも思うこともあった。もう一人の息子は二十八歳で、丸く剃り上げた顔、髪を芸術的に後ろに流して大きな塊にして波のように垂らしている。それはベリエ風と言われるものだった。王党派の弁護士として頭角を現し始めていた。国王が復帰できたとしたら、彼は司法卿として勤めることになるのだろう。

つづく

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