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不器用な先生 213

不器用な先生 212

         *

 教室の外に社研のサークル員たちが、集まっているのに気づいた。
 ぼくもそうだが、ゼミでの興奮が収まらないような気がしていた。もう少しゼミを続けていたいような、そんな気もしていた。

 須田君の眼が菅原郁恵に合わさったようだった。
「もう少しゼミを続けていたい気もしますね」
「その気持ちはわかるけど、急いでも結論が出る訳じゃない。ここで休めば、来週はもっと良い討議ができると思わないか?」
 学生たちが頷いた。
 それから、須田君だけを残して他は教室を出て行った。今日の討議結果を、落ち着いて振り返りたいに違いない。

         *

「あれっ。先輩たちは、さっさと帰っちまいましたね」
 佐竹依織がそう呟いた。それを補うような言葉を須田君が口にした。
「今日のゼミはかなり白熱しててね。そのことを一人になってじっくり考えてみたいんだろうね」
 菅原郁恵が、須田君に尋ねるような口調で話した。
「本当は須田さんも、今日は帰りたかったんじゃないのかしら?」
 須田君は照れ笑いしたような表情だった。
 ぼくが、みんなに補うように話した。
「須田君は義理堅いから、帰らないとは思うけど。今日は座ってるだけで、頭は他のことを考えてるんだろうね」

 逸見佳恵がぼくに聞いてきた。
「先生のゼミって、どんな風なものかしら。興味あるんで一度見学させていただけませんか?」
「それは、ぼくからは答えられない。ゼミの主役は学生たちなんだから」
 逸見佳恵は不思議そうな顔をしていた。
「ぼくから、みんなに相談してみますよ」
 その答えも須田君らしかった。

「もし見学の許可が下りたとしても、ぼくは遠慮させてもらいます」
 今岡奨だった。逸見佳恵は再び不思議そうな顔をしている。でもぼくは、奨の気持が解かるような気がしていた。

 武島英治が話し出した。
「前回は真実の判断することの難しさ、一概に誤りを断定できないことをまでを話したかと思います。今日からの討議対象ページには、歴史上の謝った裁きについて多くの事例があげれています。それを一つ一つ取り上げても討議しても良いかとも思うのですが、もう少し上位の観点から、罪と裁きに語るのが良いのではないかと、思っているんです。皆さんどう思いますか」
 今岡奨がそれに答えるように言った。
「ぼくも、武島君の同じようなことを考えていました。だからそれらに関する記述箇所のすべてを一通りみんなで読んでみるのは良いのではないでしょうか」
 須田君が微笑みながらそれに付け加えた。
「みんなで読み合わせることで、意見の調整も可能かと思います。とくに今日のぼくは頭を切り替えるためにも。それを必要としています」
 菅原郁恵が笑っていた。

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