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母と息子 99『魅惑の魂』第3巻 第2部 第27回

 アネット自身にも、まだ解っていないことはあっただろう。表向きでは彼女は希望を探そうとはしていない。
 だがそれは彼女のなかにないわけはなかった。けっしてないことない!
 この土地の人たちは、利己的だが省みることも忘れずに善良だった。だからとうぜんに休憩のために仮眠する権利も持っていた。彼らの祖先は歩きつづけていた。十字軍や百年戦争にも従軍している。
 これがあるからと言っても、彼らを若返らせることはない。だがこの土地は、フランスの人種として血を保証することにはなった。彼らはほんとうに、多くのものを見、多くのことを行い、多くを苦しみ、多く受難を経験してきた!… それでも彼ら笑うことを忘れない! 素晴らしいことだ… 笑うことができれば人は生きていく、そして人生を諦めもしない…
 この世界には不満の種は尽きない、だがそれをあるもで満足させることも多い。戦争が始まる前までの多くの人たち生活はほぼ似たものだった。少なくとも四十五年は平穏という面でも似てた。
 隣人に対する憎しみや羨望は、ほとんどなかった。家庭ほど素晴らしいものもなく、そこに止まることほど素晴らしいことはないと確信していたのだった。
 そしてある日からは、彼は文句を言わずに戦いのために武器をとった!…
 それも一言の愚痴さえ言わなかった。従順すぎるのでないだろうか。
 だだそこにはこの国で生きていくための智慧が充たされていた。夢中になることなくすべてを犠牲にするための準備を事前に用意されていた。それは振り返ることができる人であれば容易に、思いつくことでもあった。

 それは必ず起こる
 それは常に行われてきている…

つづく

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