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母と息子 92『魅惑の魂』第3巻 第2部 第20回

承前

 感情を顔にださないことが、一人前とでも思っているのか。なにか自慢さえしているように観える。ヒーローの代わりのつもりなのだろう。前線から到着するニュースのすべてを、少年たちが知っているのではないらしい。その中から、読んでも彼らに影響がないものだけを選んで渡されているのではないだろうか。大本営! 少年たちは悲惨なものさえコミカルに眺めている。ボーディンは笑い転げながらこう言う。
「ねえ、きみ! あそこに、ぼくの兄貴が行っていて、その経験を話したんだ! なにもかも戯言たわごとばかりで、糞が口から出てきそうになるんだってさ」
 レイヴィンは、自分のナイフでボッシュたちの血を流してやると、言っている。そしてそれが実際にどう行われるのかを見てきたように、手真似で説明するのだった。彼には、豚が殺されるのを見た経験があった。
 少年たちは銃弾の威力までも悪戯いたずら気分で話題にしていた。身近なものが砕けて飛び散っていく。鐘楼、樹木、臓腑、そして人間の頭も玩具おもちゃのように、彼の脳裏の中で飛び散っていた。彼らはそれがどう意味なのかを、まったく考えていなかった。そうだった。肉も血も、それが人間の一部分であることは知っていても、それを土塊ように弄っている快感が先立ってしまう… 肉も血も、人間にとっては魂とともにあるものなのに… 底のほうで魂が叫んでいるはずだ。でも少年たちには、それは聴こえはしないのだろう。

つづく

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