見出し画像

オーバー30歳

加齢というとネガティブな印象を抱く人が多いのではないか。私自身、今年で32歳を迎え、若い頃の自身の肉体との変化を感じると共に、フレッシュなチームメイトと比較しても肉体の衰えを感じている。

しかし、その一方で加齢に負けず、むしろ年齢を重ねるにつれて活躍する選手も存在することは事実である。みなさんご存知の世界最速最強マラソンランナー、エリウド・キプチョゲ選手は35歳である。また、モハメド・ファラー選手は37歳、ケネニサ・ベケレ選手は38歳である。彼らの実績は言うまでもないため、省略するが、30歳を超えても尚、自己記録の更新や、世界大会で勝利を収めている。トラック選手で言えばニック・ウィリス選手は32歳で1500mのサブ3分30秒を達成(3分29秒66)、そして33歳で迎えたリオデジャネイロオリンピックの1500mにて3位入賞、日本でもお馴染みBowerman Track Clubに所属するロペス・ロモング選手は34歳で27分04秒72、35歳の今年は5000mで12分58秒78を叩き出している。

日本でいえば元日本記録保持者の松宮隆行選手は現在40歳であるが、昨年5000mにて13分55秒87を記録、中国電力の岡本直己選手は36歳で2020年3月の東京マラソンにて2時間08分37秒の自己記録を更新している。
※記事中の年齢は2020年8月29日時点

加齢は誰にでも訪れる生理現象であり、加齢と共に肉体が若返ることは現実ではあり得ない。では、彼らは加齢によって肉体的な衰えがあるにも関わらず、なぜ結果を出し続けることが出来るのだろうか?競技レベル違えど、彼らの様に30歳を超えても尚、パフォーマンスを向上させることは可能なはずである。

私自身の経験に基づいて加齢の影響とその対策そして加齢の利点を考えてみた。

1. 回復力の低下
若い頃と比較し、1回の高強度トレーニングによるダメージが抜けにくいことを実感している。また、故障からの回復も時間を要する。そして一旦トレーニングを中断すると元の競技レベルまで戻すまでに時間が掛かる。

★故障による長期のトレーニング離脱を防ぐことを一番に考えることが必要。疲労の状態を踏まえ、高強度トレーニングと高強度トレーニングの日の間隔を調整するなど、疲労に応じて臨機応変に調整し、自身の回復力のキャパシティを超えないように注意する。走る以外の選択肢も取り入れる(水泳、バイクなど)。

2. 新しいスキルの習得に時間がかかる
新しいドリルなどをチームメイトと行うと、若いチームメイトと比較し、圧倒的に習熟に時間がかかることを実感している(私が不器用ということも多少は影響している)。また、習得出来たとしても若い選手と比較し、効果が表れにくい。

★神経系の発達は幼少期に行うのがベスト。しかし、身体は新しい刺激を与えることで進化するので、年を取ってスキルの習得に時間が掛かったとしても疲労のキャパシティを超えない範囲で新しい刺激を獲得することは必要。やらないよりは良いので必要と思うことは今からでも取り入れる。

3. 経験値
経験の積み重ねによって知識が蓄積し、自分の身体に対する引き出しの数が増えることで走りに関するテクニックが向上し、効率良く走ることが出来る。例えばレース中における自身の体力の配分(ゴール時にぴったりと体力を使い切ることが上手になる)や、レースに向けたコンディショニング精度(ピーキング)の向上、調子の良い時のフォームの再現性などである。
また、良くも悪くも自分の成功パターンを把握出来ているのでレース等である程度予測した結果を残すことが出来る。


4. パワーに頼らない動作
若い頃はパワーや回復力に任せて誤魔化していたことが、肉体的な衰えと共に誤魔化しが効かなくなる。その代わりに身体の使い方が洗練されていくにつれて技術で補えるようになっている。無駄な力が抜け、効率良く様々な動作が出来るようになるイメージ。

★個人的に走りの感覚が年々良くなっている実感がある。それは能力が向上したというよりも身体の身のこなしが上手になり、走りの効率が良くなり、結果として速く長く走れるイメージ。

無論、上述した世界トップクラスの選手たちは私が想像出来ないほどの膨大な量の質の高いトレーニングを行っていると思うが、彼らも若い頃と比較し、肉体的な衰えは必ずしも訪れているわけで、その中でも結果を出し続けることは容易ではない。
しかし、加齢によって肉体が衰えたとしても筋力が低下しないような取り組み(例えばウェイトトレーニング)の導入、経験値の積み重ねや、テクニックの向上によって肉体の衰えを補うことが出来るということを証明してくれている。特に長距離走は同じ動作を持続する運動であり、一歩のエネルギー消費が少しでも減れば、パフォーマンスが向上する競技である。肉体的な衰えがあったとしても、それを補う方法はたくさんあるはずである。

私自身これから競技を何年間続けることが出来るかはわからないが、トレーニング理論を含め、様々なことに挑戦し、自身の肉体を研ぎ澄ませて「加齢をプラスに変える」ことでパフォーマンスを向上していきたいと思う。

画像1

(昨年、31歳にて初めて5000mで13分40秒台へ突入)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?