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林業の存在意義を改めて考える

基本的に林業はポジティブな可能性に満ちた産業であると信じていますが、見方によっては先行きはかなりネガティブです。林業事業を細々と行っている事業者として、ネガティブな部分について書いてみたいと思います。


建前としての林業の役割

まずは法律的な位置づけ

林業については、森林の有する多面的機能の発揮に重要な役割を果たしていることにかんがみ、林業の担い手が確保されるとともに、その生産性の向上が促進され、望ましい林業構造が確立されることにより、その持続的かつ健全な発展が図られなければならない。

森林・林業基本法3条

※森林については、その有する国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、公衆の保健、地球温暖化の防止、林産物の供給等の多面にわたる機能があり、その機能を森林の有する多面的機能の発揮という。

林業の目的は、森林からの木材の効率的な生産です。しかし、森林は、私たちに木材を供給してくれるだけでなく、二酸化炭素を吸収する、水を貯留し洪水を緩和する、土砂の流出を防ぐ、川や海へ養分を供給する、多様な生物を育む、風景や安らぎを与えるなど、さまざまな公益的機能を持っています。こうした森林の持つ公益的機能を、木材生産と矛盾なく発揮させる森づくりは決して不可能ではありません。

森づくりの理念と森林施業(林野庁)

森林の持つ公益的機能を、木材生産と矛盾なく発揮させる森づくりは決して不可能ではないということに強烈な違和感を感じます。
山林所有者や林業事業者の感覚からすると、木材生産しかお金にならないため、公益的機能を意識することはほとんどないというのが実情ではないかと私は思います。

ウッドショックで国内の丸太の価格が上がれば、森林所有者の多くは売りたがり、価格が下がればもう少し待ってみようということになります。森林の機能を高めるためにお金を出すのではありません。

木材需給は新設住宅着工戸数に大きく影響を受ける

木材需給表(林野庁)

令和3年の木材需給の製材用が1,286.1万㎥です。ここは新設住宅着工戸数に依存しますが、今後日本の住宅需要は益々減少することは誰の目にも明らかです。株式会社野村総合研究所の予測も納得できます。

新設住宅着工戸数は現在の減少傾向が維持され、2040年度には約55万戸(2022年度比約36%減)にまで落ち込む見通しです。

株式会社野村総合研究所

住宅需要が減少傾向の中で、住宅より大きい店舗・事務所等の非住宅と言われる分野の需要を増やそうとしていますが、鉄筋コンクリート造より木造は価格が高いため、結局価格で負けてしまっている状況です。これは製材工場に勤務していた時によく経験しました。一部では木材の環境価値に注目した物件はありますが、ほとんどが価格で発注が決まります。

燃料用の木材は単価が低い

木材需給表の中で、燃料材は需要が大きく伸びています。

令和4年(2022年)の木材の総需要量は8,509万4千立方メートルとなりました。前年と比較すると296万4千立方メートル(3.6%)増加しました。
これは前年に比べ、用材が35万2千立方メートル(0.5%)増加したこと、しいたけ原木が3万7千立方メートル(15.0%)減少したこと、燃料材が264万8千立方メートル(18.0%)増加したことによります。

木材需給表(林野庁)

令和4年度は木材の需要は増えたものの、その内訳は燃料材の増加分がほとんどです。燃料用の丸太の価格は安価で取引されるため、製材用材の副産物として出てくることで成り立ち得るものです。

林業は労災発生比率が高い

業種によって労災保険率は高低がありますが、労災が発生しやすい業種は料率が高くなります。令和6年の料率表によると、

  1. 金属鉱業、非金属鉱業等  88

  2. 林    業       54

  3. 船舶所有者の事業     42 

林業は上から2番目に労災の発生件数が高いということが分かります。社会的に人手不足なの中であえて林業で働く人はそう多くないでしょう。

最後に

林業は今後の木材需要を考えると需要は先細りで、労災発生率も高い。電気ガス水道とは違い、林業は社会インフラでもなく、林業は木材需要に従って衰退していっても大きな問題にはならないのではないか。林業のサプライチェーンの中にいると、そんなことを感じている林業従事者も多いのではないでしょうか。

林業は可能性を秘めている産業であると信じています(正確に言えばその可能性を見出したいと強く思っています)が、ネガティブに林業を捉えてみました。

お読みいただきありがとうございました。




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