人類は化石燃料を食べている

あまり認識されていないが、化学肥料は化石燃料のエネルギーで製造されている。特に大量のエネルギーを必要とするのが窒素肥料。空気に含まれる窒素ガスをアンモニアに変換する。これには天然ガスのエネルギーを利用することが多く、アンモニアの製造だけで世界のエネルギー消費の1~2%にもなる。

ロシアが硝酸アンモニウムという重要な窒素肥料を世界の45%ものシェアを握っていたのは、豊かな天然ガス資源があったから。これがウクライナ侵攻のために手に入らなくなった。硝酸アンモニウムの半分が世界から消えた格好。

このため、化学肥料が世界的に不足している。不足しているなら作ればいい、とは簡単に言えない。空気中の窒素ガスをアンモニアに変換する設備を作るにも時間がかかるし、何より天然ガスのようなエネルギーが必要。そのエネルギーさえ手に入りにくくなっており、化学肥料の製造がままならない。

化学肥料は、天然ガス以外のエネルギーでも製造できる。電気エネルギーでも作れる。ならば、太陽電池で作ったエネルギーで化学肥料を作ることも可能。可能だが、エネルギーがそもそも足りない中、化学肥料の製造に振り向けるエネルギーが不足しているし、アンモニアを製造する設備もない。

それに、太陽電池は化学肥料製造にそのままでは向いていない。化学肥料の製造は、安定した化学反応の状態を維持する必要がある。日中にしか発電しない太陽電池では、アンモニア製造で行われるハーバー・ボッシュ法が安定しないだろう。24時間、安定したエネルギーが必要。

化学肥料は今、世界中で争奪戦の様相。バーツラフ・スミルという研究者の試算によると、化学肥料が一切ない場合、地球は30〜40億人しか養えない。今、世界人口は78億人だから、世界の半分しか養えない。化学肥料は今後も相当量必要。

有機肥料でまかないたいところだが、大量の有機肥料は、化学肥料から生まれている。ウシやブタが大量に出すウンコ(畜産廃棄物)は、もとをたどればトウモロコシ。トウモロコシは、化学肥料のおかげで大量生産できている。もし化学肥料が今後も使用が難しくなったら、有機肥料も足りなくなりかねない。

現在の人類は化石燃料を食べている、と言って過言ではない。化石燃料のエネルギーで製造した化学肥料で食料を作っているからだ。そして、化石燃料以外のエネルギーで化学肥料を製造するシステムはまだない。ロシアがしかけた戦争は、世界的な食料危機を招きかねない。

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