石油ほどエロい(EROI)エネルギーは見当たらない

エネルギー問題を考えるのに非常に重要な指標がある。エロい(EROI)。石油の利用が始まったばかりの頃、採掘に必要なエネルギーの二百倍もエネルギーが得られた(EROI=200)という。当時、石油は油田から噴水のように吹き出していた。石油はとてもエロいエネルギーだった。

しかし今や、石油は「搾り出す」ようにしてしか採れなくなった。水を高圧で地層に注入して石油を搾り出す。シェールオイルはその典型。そんな方法だと、採掘の際に膨大なエネルギーが必要となる。どうやら今は、採掘エネルギーの10倍程度しか石油が採れなくなっている。採算性の悪いエネルギーに。

石油は掘り出したままの原油だと使いづらい。精製する必要がある。必要な場所にも運ばねばならない。そのようなコストを考えると、採掘に必要なエネルギーの3倍(EROI=3)を切るエネルギーしか採れない場合、エネルギー的に赤字になる。その数字に徐々に近づいている。石油はエロくなくなりつつある。

どのエネルギーを考える際にもこのエロさ(EROI)は重要な指標。たとえばバイオ燃料は、(エネルギー的な)黒字化がとても難しい。ブラジルのバイオエタノールだけが例外で、作るのに必要なエネルギーの7倍(EROI=7.41)が得られる。しかし他のバイオ燃料は1を切っている。赤字。

アメリカはトウモロコシからバイオエタノールを作っているが、作るのに必要なエネルギー分のバイオエタノールが手に入らない。エネルギー的に赤字(EROI<1)。油からディーゼル燃料を作るバイオディーゼルも同様(EROI<1)。バイオ燃料は、ブラジルのバイオエタノールを例外として赤字。エロくない。

ブラジルのバイオエタノールが例外的にエネルギー的に黒字にできるのは、サトウキビの搾り滓を燃料にしてエタノールを取り出しているから。他の地域でやろうとしても規模が小さくてうまくいかない。バイオ燃料は、ブラジルのそれを例外として、エロくない。

原子力はエロさ(EROI)がはっきりしないエネルギー。ウラン燃料が燃えることで得られるエネルギーは膨大だが、原子力が作れるのは基本、電気エネルギー。そのエネルギーで原子炉を作れるのか?原子炉は分厚い金属の窯を作らねばならないが、電気で作れる保証が今のところない。

原子炉を作れたのは、石油などのエロい化石燃料がたっぷりあったから、分厚い金属の窯を鋳造することができた。しかし原子力が作り出した電気で原子炉を作れる保証がいまのところない。しかもウラン資源は残り170年とされ、原子炉が増えれば30年程度とも言われる。エロいエネルギーと言えるかどうか。

核融合はとてつもないエネルギーを生み出す。しかし核融合という強烈な反応を継続させる技術がまだ開発できていない。先ごろ、核融合を起こすのに消耗したエネルギーよりたくさんのエネルギーを発生させることに成功した、というニュースが。しかし「発生」したのであって、取り出せたわけではない。

核融合のエネルギーを人間の利用可能なエネルギーに変えるには、意外なことに「お湯を沸かす」という、蒸気機関の時代とさして違わない方法を採らざるを得ない。お湯を沸かしてその湯気がタービンを回し、電気を作る。核融合からエネルギーを取り出すには、お湯を沸かすしかない。

核融合は1億℃を超える高温。お湯を沸かすのはせいぜい100〜300℃くらい。温度に落差がありすぎる。この落差を埋めることが技術的に非常に難しい。核融合は大量の放射線を出すので、核融合炉は劣化しやすい。丈夫でなくちゃいけないのに脆くなる。エネルギーが大きすぎて扱いづらいエネルギー。

その点、石油など化石燃料はエロい。「燃える」という現象はせいぜい1000℃前後。「お湯を沸かす」のにいいあんばい。原子力や核融合は、大きすぎるエネルギーのために扱いが難しい面がある。まだしも原子力は扱えたとしても、核融合は果たして手綱をさばききれるのか。あまり楽観はできない。

太陽電池は、今のところ製造時に消耗するエネルギーの3倍(EROI≒3)が得られるという。改良が進めばさらに効率が上がるだろう。
ただし3倍程度のままだと、エロい(EROI)エネルギーだと言えるかどうか。太陽電池を製造するのに1倍のエネルギーを消耗するから、利用できるエネルギーは2でしかない。

また、太陽電池のエネルギーで太陽電池を作れるかはまだ実証されていない。太陽電池を製造するには、様々な金属資源を精製・抽出しなければならないが、太陽電池の作り出す電気でそんなことができるのか、今のところ保証がない。電気で様々な金属を鋳造できるのか?まだ未検討。

木を燃料とする方法がある。日本は森林が豊富だからたっぷりエネルギーがあるように見える。しかし日本の森林を丸裸にしても0.9年分のエネルギーにしかならない。同じだけの森林を取り戻すには何十年もかかる。木質エネルギーはたっぷりあるようで、実はそんなに資源量はない。

地熱発電はよく期待されるエネルギーだが、意外と適地を見つけるのが難しいらしい。何度も深い穴を掘って探さねばならないし、適地だと思って発電を始めたらすぐに冷めてしまった、ということが起きやすく、安定的にエネルギーを得ることが難しい。バクチみたい。で、地熱発電は広がるどころか縮小。

潮汐発電とか、潮流発電とかはどうか。うまくいってる事例がない。力が巨大すぎて設備がすぐ壊れてしまうらしい。大きすぎる力からエネルギーを取り出すのは意外と難しい。利用したくても利用できない。科学は進んだようで、実は石油のようなマイルドでちょうどいい塩梅のものしか利用できない。

トータルでみて、石油など化石燃料ほどエロい(EROI)エネルギーはない。ほどよい温度で燃えてくれ、それでいてエネルギーが大きい(エネルギー密度が高い)。しかも安い(高騰した今でも)。こんな優れたエネルギーは他にない。化石燃料から離脱するのは容易ではない。

しかし、化石燃料は共通した問題がある。二酸化炭素を出すこと。これにより、地球が灼熱化(温暖化)する恐れがある。人類など、大型生物が生きていけない星になる恐れがある。このため、世界的に化石燃料からの離脱(過剰な依存をやめる)を目指さざるを得なくなっている。

石油ほどエロい(EROI)エネルギーが見出だせない中で、別のエネルギーから生きていく手段を見出さざるを得ない。
しかも厄介なのは、農業自体がエロくない(EROI値が悪い)という問題が。化学肥料を使いトラクターで耕す現代農業だと、1キロカロリーのコメを得るのに2.6キロカロリーの石油を燃やす。

日本で農産物を作るのに消耗しているエネルギーの量は、生産されてるエネルギーの2.79倍(EROI=0.36)。農業は本来、お日様のエネルギーを得て、光合成して育つのだからエネルギー的に黒字にならなければおかしいのに、エネルギー的に大赤字になっている。こんなことが続けられたのは石油が安いから。

しかしこれから石油など化石燃料は、次第にエロさを減らしていく(EROIが低下していく)。「石油でコメを作る」というやり方は続けられなくなる。「エロいエネルギー」が失われていく中で、どうやって食料生産を続けることができるのか。これから人類の正念場が始まる。

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