購買力を取り戻さねば「飢饉」が起きかねない

コメが記録的な安値になろうとしている。大規模農家でも採算がとれないほどの安値であり、このままだと日本の食料安全保障の底が抜けてしまいかねない。
コメが安値になった原因の一つは、外食産業が新型コロナで営業できなくなったことが大きい。ただし、人間は本来、同じ量の食料を食べるはず。

どうやら、コメを食べたくても食べられない、という貧困の問題が重くのしかかっている様子。外食産業をはじめとする、新型コロナで大きな影響を受けた産業では、雇用が維持できなくなっている。この人たちは所持金も底を尽き、その日の食べるものにも事欠くようになっている。

食費を切り詰めざるを得ない状況が、コメの消費を大きく減らす原因になっているようだ。つまり、経済対策が不十分なために、生活苦から食費を減らし、それがコメ消費者の減退を招き、さらにコメ生産者が生活するメドが立たないほどの米価格暴落につながっている。

しかもコメばかりではない。野菜などの価格も低迷している。居酒屋などの外食産業は、自宅では食べないようなプチぜいたくな食材を扱うため、少し値が張る。ここに販売することで、生産者は高めの野菜などを販売することができていた。しかし。

外食産業が軒並みアウトになったことで、生産者は家庭向けの野菜にシフトせざるを得なくなった。しかし多くの人が仕事を失い、野菜を買う余裕がない。それくらいなら、カロリーが稼げるコメを、安めのものを狙って買うことになる。高い食材の需要が蒸発し、低価格側にシフトしている。

低価格の野菜さえ、十分に買うことができない。そもそも、安物のコメさえ十分に買えない人が社会にあふれつつある。そのため、コメだけでなく、あらゆる食材が低価格側にシフトし、しかも需要が減る一方。食費を切り詰め、食べたい量だけ食べられない人が増えているから。

どうやら、日本で「飢饉」が発生しつつある、と見た方がよいようだ。インドの経済学者アマルティア・センは「貧困と飢饉」の中で、飢饉は食料が足りないからでも、農作物の不作が原因ではないことも、様々な大飢饉を調査することで明らかにしている。飢饉の原因は、購買力の低下が非常に大きい。

街のスーバーマーケットには食料があふれかえっている。けれどすぐそのそばで飢えに苦しみ、餓死する人がたくさん出た。飢饉とは、多数の人々が購買力を失い、食料にアクセスできなくなった状態を意味する。日本はいまや、その状況に陥りつつあるようだ。「飢饉」が全日本的に起きようとしている。

セン氏は、飢饉の原因にもう一つ上げている。政府の無策。
購買力を失った人たちに、政府が食料を買い取り、配布した場合、あるいは雇用を創出して購買力を回復させる施策をした場合、大凶作が起きた国でも餓死者は発生することがないことを前掲書で明らかにしている。

日本も決して無策とは言わないが、不十分であるのは確か。国民の少なからずが購買力を失い、食べるのにも事欠くようになっているし、雇用もない中、ひとりの人間としては手の打ちようがない環境に置かれている人が増加している。

日本では再び自殺者が増えている。金銭的に行き詰まり、食べるものにも事欠くことが目に見えたとき、絶望して自殺するケースが出るのは容易に予想がつく。私は、これらは「飢饉」の被害者としてカウントすべきだと考える。餓死するのを待たずに自殺しているだけで、もはや飢餓の環境にあるのだから。

セン氏が提案しているように、この「飢饉」が起きようとしている状況を打開するには、購買力を国民に取り戻すことが肝要だ。また、雇用を創出することで、購買力を回復する手助けも必要だ。

私は、携帯各社に雇用の増大を要求する代わり、携帯料金の高め維持を容認する政策に切り替えてはどうか、と考えている。
今や、仕事を探すのにもスマホなど携帯は欠かせない。食費を切り詰めてもスマホ料金を払わざるを得ない状況。そんなに必須な産業になってるのなら、そこに雇用を頑張ってもらう。

成長産業に雇用を促し、その代わり、その産業に収益が集まりやすい構造を容認する。それによって雇用の流動化と安定化を図ってはいかがか。雇用が増えれば購買力が回復し、携帯料金を負担する余力が増す。携帯各社は収益が安定し、投資を積極的に行える。

飢饉の対策は、国民の購買力を取り戻すこと、そのためにも雇用を生み出すことだ。もしこの点で後手に回ると、日本で「飢饉」が起きかねない。セン氏は、前掲書の中で、蓄えを失い、食料を買えなくなった時期から餓死が始まることを明らかにしている。日本も蓄えを失う人が増加している。急務!急務!

少し追伸。野菜の低価格で苦しんでいるのは生産者。スーバーマーケットでの小売り価格は天候不順もあり、高くなっています。

食品ロスを指摘している人が多数いらっしゃいます。飲食店は食品ロスが多いと考えてのご指摘でしょうが、食品ロスは家庭部門の方が大きいです(家庭部門の食品ロスは3.7%、外食は3.1%)。まずはこの点の誤解を解いてもらった方がよいでしょう。

https://www.google.com/url?q=https://www.maff.go.jp/j/study/syoku_loss/01/pdf/data2.pdf&sa=U&ved=2ahUKEwj2l56HqarzAhVVEHAKHZUDB8wQFnoECAoQAg&usg=AOvVaw2CHhKpN9gmeevtFEkGETfa

何より重要なこと。「飢饉」ともいえる購買力低下で基本的な食事さえ満足にとれない人が出ていること、それにより餓死者が出かねないこと。食品ロスが出るのが問題ではない、その食品ロスにさえアクセスする道のない人たちが増加している懸念があること。購買力をどう取り戻し、「餓死者」を未然に防ぐか。それを必死に考えなければならない。

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