関係性が情報を刻む

昨晩の人工知能の議論で、「なんでこんなに小さな脳みそに、80年もの記憶を残しておけるのだろう?」という話が。タンパク質の分子が一つすつ記憶しているのでは?なんて話も出たが、私は違うように思う。恐らく記憶は「関係性」に刻まれているのではないか。

このことは、遺伝子のことを考えるとわかりやすい。遺伝子の数の割に、人体はあまりに複雑。肝臓の細胞は、表面とその内部では形も機能も異なる。そうしたことが身体のありとあらゆる部位で起きている。遺伝子にこれらすべてのことをプログラムしておくことは困難。ではどうやって?

私はこんな思考実験を考えたことが。ウシの受精卵に人間の細胞の核を入れたら、人間になるだろうか?と。恐らく人間にはなれない。受精卵の核以外の場所(細胞質)に、どの遺伝子をどの順番で刺激するか、というものがあるように思う。そしてその順番や刺激がヒト細胞と違うと、人になれないのでは。

人間がわずかな数の遺伝子でこんなに複雑で多種の細胞を適切に作り出せるのは、「関係性」がその宿命を決めているためだろう。受精卵は、最初にどの遺伝子を動かすかだけ決めておく。すると遺伝子が別の遺伝子を刺激し、それの作った物質が別の遺伝子を刺激し、と、「関係性」が目まぐるしく変化する。

「隣の細胞は肝臓の表面の細胞になろうとしてるみたいだから、うちはその内側の細胞になるために、あれとこれの遺伝子を動かそう」と、隣同士の細胞が関係性から自分の細胞の宿命を決めていく。遺伝子は、そうした関係性の変化まで恐らくは記録できていない。しかし将来、どんな関係性が生まれるかを

見通した上で遺伝子は配列され、どのタイミングで刺激されるかを想定した上で設計されている。遺伝子は恐らく、遺伝子以外の要素(隣の細胞からの刺激や、どんな物質に囲まれてるかなど)との「関係性」で、どのタイミングでどの遺伝子が働くのかを決めているのだろう。恐らくは、

関係性なしに遺伝子はうまく働かない。ウシの受精卵の中では、どのタイミングでどの遺伝子を動かすかを決める「関係性」が崩れてしまうであろうように。つまり、遺伝子だけに情報が刻まれているのではない。遺伝子以外の要素との関係性に情報が刻まれているように思う。

これは恐らくは、記憶も同様ではないか。人間の記憶は、半導体の一つ一つの素子がゼロか1かを記録しているのとは違い、神経細胞同士のシナプスが作るネットワークが、関係性という形で記憶を刻んでいるのではなかろうか。

幼い頃の記憶と、八十才で経験したことに似た部分があったら、共通するネットワークはそのままに、異なる記憶には新たな「関係性」を追加して、記憶として刻む。記憶とは、神経細胞同士の関係性として刻まれているのではないか、というのが、私の仮説。

遺伝子がわずかな種類なのに多様な種類の細胞を生み出せるのも、わずか数の神経細胞が80年にも及ぶ記憶を記録しておけるのも、素子に刻むのではなく、素子同士の「関係性」として情報を保つようにしているからではないか。そう考えると、わずかな素子でできることは増えるように思う。

遺伝子も記憶も、関係性が大きな役割を果たしているのではないか。もしこの仮説が妥当であるならば、人工知能も、関係性に着目した記録の刻み方をすると、また別の発展ができるのかも。もうすでにそうした考え方で設計されてるのかもしれないけれど。

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