いじり芸は回り回って自分に跳ね返る?

島田紳助氏が暴力団との関係性を指摘され、引退した。あれだけの話術で人気を誇った人だし、いろんな売れない芸人を世話してきた人物だから、そうした人たちが紳助氏復活のために動くだろうし、すぐ復活するかもと思っていた。ところがいまだに復活できていない。

紳助氏は「上司にしたくないNo.1」に挙げられていた。会社の中で上司からあんなふうにいじられたら、とても働いていられない、というサラリーマンの意見が多かった。紳助氏は、本人が怒るに怒れないギリギリの線でいじり、笑いをとるのが上手かった。しかし。

もし職場で自分がそれをやられたら、と想像すると、とても我慢できないと考えたサラリーマンが多かったようだ。もしかしたら、紳助氏が復活できなかったのも、このいじり芸に原因があったのかもしれない。売れない芸人たちは、紳助氏が絶頂にある時は一様に感謝の言葉を述べていた。

しかし、紳助氏復活のための運動は、私みたいな素人から見ると、粘り腰に欠けているなあ、と感じた。紳助氏にひきあげてもらい、テレビで出演する機会を設けてもらえたことに実際感謝はしていたのかもしれない。けれど同時に、いじられることは実はすごくイヤだったのかもしれない。

それが、紳助氏復活運動に粘り腰が欠けていた原因ではないか。他人の劣等感を笑いにするといういじり芸は、その場では笑いを誘っても、嗤われた側は奥底で傷つかずにいられないのかもしれない。

今回、松本人志氏が、週刊誌報道で渦中の人となっている。吉本新喜劇と共に裁判で戦う姿勢を見せているものの、裁判に集中するため、芸能活動を休止するという。多くの有名人が仕事を続けながら裁判をする中、なぜ松本氏は休止することを選択したのだろうか?

もしかしたら、「いじり芸」に対する反発が、自分で思っている以上に強いことを感じ取ったからではないか。強く味方してくれる人もいる。でも他方で、芸をひどく忌み嫌っている人たちがこんなにもいるということに、驚いたのではないだろうか。

今回の件があるまで、松本氏は自分への反発を強く感じることはなかったのだろう。しかし予想以上の反発が今回の件をきっかけに噴出したのを見て、いじり芸を続けるだけの気力を維持するのが難しくなったのかもしれない。

いじり芸は毒をもった嗤いだ。毒は時に薬になることもあるが、毒を常用すればやはり毒だ。そしてその毒は、自分にも跳ね返ってくる。その毒を浴びせ続けられてきた人たちが、ようやく声を聞いてもらえる機会を得て、一斉に発言するようになった。

サラリーマンたちが紳助氏を「上司にしたくないNo.1」に挙げたということは、そういう上司が職場にいる事例を知っていた人が多かったからかもしれない。そしてそれで愛想笑いしなければならず、でも心は血みどろになる事例をたくさん見てきたからかもしれない。

いじり芸は素人がマネしてよいものではない、という指摘をする人が複数いたけれど、もしかしたら芸能界でも、本当は歓迎されているとは言えない芸なのかもしれない。紳助氏の復活のために必死に動く人の少なさを見ると、そう私は感じてしまう。

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