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9月から3000円「値上げ」も? 自分の年金を知ろう コロナ禍で100円単位の節約を意識する家計も多い中、9月から毎月の負担が2745円増える「値上げ」があることをご存じだろうか? 1年分積み重なると約3万3000円と侮れない額だ。

会社員などが加入する厚生年金の保険料が9月に引き上げられ、9月以降にもらう給与から天引きされる保険料が増える。当然、手取りはその分減る。 ■対象は「高所得者」 いいニュースは対象は全員ではないこと。負担上限が引き上げられる形なので関係があるのは、もともと上限に達していたいわゆる「高所得者」だけだ。だが安心するのは早い。悪いニュースは対象者は結構多いこと。 厚生年金には加入者が約4400万人いるが対象になるのはうち約290万人。およそ15人に1人の割合だ。対象者全員の保険料が上がるわけではなく中には現状維持の人もいるが、一般にイメージする起業家や社長といった高所得者のイメージより間口ははるかに広い。年収800万円台のプチ高所得者でも対象になる可能性があるが、収入は多くても同時に子どもの教育費や住宅ローン返済など支出も膨らみがちなのがこの所得層の特徴。年3万円強が全く痛くないわけはない。 ■保険料率アップは終わったはずなのに それにしても9月になぜ保険料が上がったのか? 厚生年金については数年前(正確には2017年)に保険料率が上限の18.3%に達して以後固定されたはず――。そう覚えている人も多いだろう。間違いではないが、それはあくまで料率の話。今回上限が引き上げられたのは、料率を掛ける相手先「標準報酬月額」の方だ。当然どっちが増えても掛け算の結果の額は膨らむ。 ■自分は上がる? 上がらない? 自分が保険料引き上げの対象なのか、否か。自分の「等級」を覚えていればすぐ分かる。関係があるのは「31等級」の人だ。しかし軍隊でもあるまいし自分の等級など知らないのが普通。社会保険料の決まり方を順を追ってみてみよう。 まず土台になるのは4~6月の3カ月間にもらった報酬だ。報酬とは基本給だけでなく通勤や残業に関する各種の手当も合計した「会社からもらったお金」を意味する。3カ月の平均値が自分の「報酬月額」になる。上図の場合は64万円だ。 それを社会保険料を計算するときに使う「テーブル」に当てはめる。計算がしやすいように端数をなくしてザックリくくり直したもので「標準報酬月額」と呼ばれるのがこれだ。今までは31等級62万円で頭打ちだったので、報酬月額が61万円の人も100万円の人も同じ31等級だった。これに9月以降、32等級65万円が新設された。 この例の報酬月額64万円の人のように当てはまる標準報酬月額が62万円から65万円へと3万円高くなると、そこに保険料率を掛けた分だけ保険料が上がる。厚生年金保険料は会社と折半で支払うので自己負担分は月5万9475円になる。62万円のカテゴリーだったときと比べて2745円高くなるわけだ。 ■20年ぶりの上限引き上げ 実際に対象になった人は「なぜ今?」「なぜ高所得者だけ?」と不満を感じるかもしれないがルールにのっとった措置だ。法律上、標準報酬月額の上限は全加入者の平均標準報酬月額の2倍をメドにしており、継続して下回る場合は引き上げる仕組みだ。前回の上限改定は2000年と20年も前。以来、賃金が伸び悩んでいたわけだがそれでも16年以降は条件を満たしていたという。それが延び延びになった結果、タイミングとしては最悪に思えるコロナ禍に当たってしまった――。それは悪いニュースだが、いいニュースもある。 ■負担には受益 将来の年金はその分増える 厚生年金は払った保険料が多いほど将来の年金額も増える仕組み。標準報酬月額65万円で保険料を40年間払い続けると、従来の62万円に比べて年金額は1年あたり8万円程度の増額が見込める計算になる。社会保険労務士の高橋義憲さんは「負担増ばかり強調せず給付増にも注目するべきだ」と言う。「保険料の増額と将来の年金増をはかりにかけると17年ほどで元が取れる計算。65歳からの受給開始後82歳以降の日々に心強い備えになる」 確かにそうだ。年金というと反射的に制度不安を口にしたくなるが、その前に一度、給与明細を眺めながら自分の年金について考えるいい機会かもしれない。

#COMEMO #NIKKEI

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