ビル・ゲイツ氏、PC1人1台実現 AI時代に可能性 1975年に米マイクロソフトを共同創業したビル・ゲイツ氏(64)が取締役を退任した。基本ソフト「ウィンドウズ」を開発し、一人ひとりがパソコンを持つ社会を築いた。米IT(情報技術)業界ではグーグルでも創業者が一線を退き、世代交代が進む。人工知能(AI)がテクノロジーの中核となる新時代を控え、ゲイツ氏の軌跡から学ぶことは多い。 「マイクロソフトのリーダーシップはかつてなく強く、次の段階に進む最良の時期だ」。

ゲイツ氏は13日、ビジネスSNS(交流サイト)の「リンクトイン」にこう投稿した。2000年に最高経営責任者(CEO)を退き、14年には会長を辞めて慈善事業に軸足を移していた。今回、取締役からも退任する。 引退の準備は整っていた。14年に就任したサティア・ナデラCEOのもと、マイクロソフトはクラウドを主体とする企業に転換した。ソフトウエアの売り切りではなく、継続的に収益を得る体質を築いた。時価総額は1兆ドル(約110兆円)を超えて米アップルと首位を競う。栄枯盛衰の激しい業界で異例の復活を果たした。 1970年代、コンピューターは研究機関や大学で専門家が操る高価な機械だった。ゲイツ氏は様々なハードで使える基本ソフトを発売して低価格化を進め、パソコンを一般に普及させた。「自分たちの製品が明らかに世界を変えていった」。90年代にゲイツ氏を支えたネイサン・ミアボルド元最高技術責任者(CTO)は振り返る。 ただ、大きすぎる成功は2000年代に入って起きた技術の新潮流に乗り遅れる要因にもなった。インターネットではグーグルに、スマートフォンでは「iPhone」を開発したアップルに後れを取った。新たなコンピューターのインフラになりつつあるクラウドでは米アマゾン・ドット・コムが頭一つ抜ける。今後はAIがテックの主戦場になる。 AIなどが社会のインフラとなり、テック企業が向き合う対象はかつてなく広がった。気候変動や難病の治療といったテーマはゲイツ氏のような富豪が慈善事業として取り組むだけでなく、テック企業にとっても競争の舞台となっている。 マイクロソフトは30年までに二酸化炭素(CO2)排出量を純減させると表明し、関連技術への投資を進める。ゲイツ氏の退任発表の直前には、トランプ米大統領が新型コロナウイルス対策のための専用サイトの構築などで、グーグルと協力すると発表した。 テック企業の巨大化や影響範囲の拡大によって社会との調和が求められる時代になった。かつて攻撃的な社風で知られたマイクロソフトは独占禁止法違反を巡って米司法省と対立し、会社分割の瀬戸際に追い込まれた。ゲイツ氏は「訴訟がなければ皆さんはウィンドウズを搭載したスマホを使っていたはずだ」と、後悔を口にしている。 テクノロジーは課題解決の手段になると同時に新たな問題も生み出す――。ゲイツ氏は以前、日本経済新聞の取材にそう語っていた。テック企業の中心でその功罪と浮き沈みを体現してきた先駆者の45年間から、後進が学べることは多いはずだ。

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