「新独占、公益性の観点で議論を」大橋弘氏 あらゆる産業に影響力を持ち始めた巨大IT(情報技術)企業。データが集中する「新しい独占」は産業の垣根を溶かし、健全な競争を阻害しかねない。国家や消費者はどう向き合うべきなのか。競争政策に詳しい東京大学の大橋弘教授に聞いた。

大橋弘(おおはし・ひろし)氏 1993年(平5年)東大経卒、2000年にノースウェスタン大学で博士号を取得。11年から公正取引委員会の競争政策研究センター主任研究官。12年から現職。競争政策の分野では主に企業合併の効果や法制度について研究してきた。49歳   「寡占度調べる指標、必要だがまだない」 ――「GAFA」と呼ばれる巨大IT(情報技術)企業の寡占化が進んでいると指摘されます。 「寡占度を測る指標は特定の市場を区切り、シェアをもとに算出している。ITプラットフォームを手がける企業は異なる市場をつないでビジネスをしている。データの価値は製造業の製品の価値と同様には捉えられない。健全な競争を維持するための手法と今の市場の間にずれが生まれている。新たな寡占度を調べる指標が必要だが、現時点では存在しない」 ――デジタル時代は企業の競合関係が複雑になっているようです。 「市場が融合している。一見異なる市場でもデータをやり取りすれば補完的なビジネスになる。データはつなげることで価値を生み、規模の経済が働きやすい。利用者が増えるほど恩恵が増す『ネットワーク効果』が働く」 ――ITプラットフォームはこれまでの寡占と何が違いますか。 「従来は市場という公共性のあるプラットフォームの中で競争が起きていた。だがGAFAなどのプラットフォームは営利企業がルールを決められる。一部の企業を優遇したり冷遇したりできるため、公共性がゆがみかねない」 ――そこでの競争は公正でしょうか。 「プラットフォームは伝統的なビジネスで企業秘密だった情報を全て知っている。利用者の購入履歴から売れ筋の商品までデータをもとに細かくビジネスを把握できるからだ。裏側の仕組みはブラックボックスだ。その上でプレーヤーになると非常に強力で、不公正な競争になりかねない」 「合併による独占審査、事後的対応も」 ――新たな独占にはどう向き合うべきでしょうか。 「一般の民間企業がいわゆるGAFAと対等にやり合うのは難しい。交渉力の格差を埋められるのは行政だけだ。独占禁止法は重要だが、執行に時間がかかる。官民連携で問題を解決する方法を考えるべきだ」 「米IT大手は頻繁に競合になりそうな企業を買収している。競争法は合併による独占を審査してきた。法的には一度認めれば後には何も言えない。だがデータの時代は合併の結果を予測するのが難しい。ある程度事後的な対応も考える必要がある」 ――競争は資本主義にとって重要ですか。 「競争はある種の無駄だ。規模の経済が働くときは独占化したビジネスの方が効率が良い。だが過去の歴史では独占化したビジネスは社会の公益性に反してきた。外からの圧力がないと公益性の阻害に向かってしまう」 「従来は公益性の上に資本主義があった。データが及ぼす影響をしっかり考えないと公益性は担保できない。新たな局面では経済だけで論じられなくなってきた。民主主義や我々の生活を支える公益性をいかに守るか。こうした観点からもっと議論すべきだ」

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