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#中国の債務問題は対岸の火事でも敵失でもなく #コロナショックから立ち直りかけた世界経済への脅威 #習近平国家主席が家は住むためのもので投機のためのものではない #という言い回しを使いはじめたのは16年のことだった

#中国の時限爆弾世界も共犯恒大ショックで株急落 中国不動産大手・恒大集団の債務問題がマーケットを揺さぶっている。米国債の債務不履行懸念も重なり、日経平均株価は3万円の節目を大きく割り込んだ。投資家は長年目をそらしてきた中国の不動産バブルという「灰色のサイ」の震度と深度を測りかねている。  「本当は、中国は成長率を2~3%程度、できれば一時的にゼロ近辺に落とすべきなんですよ」。7年ほど前、取材を終えた中国ウオッチャーが別れ際につぶやいた。固定資産と負債のストック調整には荒療治が必要と持論を披露した後、こう付け加えた。「でも、政治的には許容できない。結局、行き着くところまで行くのでしょうね」 恒大問題は時限爆弾型の潜在リスクを指す「灰色のサイ」の典型例だ。「見ないふり」をしてきた中国のいびつな成長と債務膨張のツケ払いは、何をもたらすのか。 まず2008年の金融危機との相違点を押さえておこう。 大きな違いは「恒大は『大きすぎてつぶせない(Too big to fail)』ではない」(SMBC日興証券のジェレミー・ヨー氏)ことだろう。つぶせないはずの巨大投資銀行の破綻が危機を招いたリーマン・ショックとは違い、「秩序立った処理で信用不安を避けつつ、不動産投機と貧富の差の抑制を進めるのが中国政府の課題だ」(ヨー氏)。 習近平国家主席が「家は住むためのもので、投機のためのものではない」という言い回しを使いはじめたのが16年。恒大の処理はようやく始まったバブル退治の一幕だ。当局は恒大と創業者の許家印氏をバブルと投機の「主犯格」に仕立てるだろう。だが、大きな視点では、中国の巨額債務は欧米や日本など世界全体がいわば共犯者となって生みだした時限爆弾とも言える。 「中国だけでなく、世界経済が金融危機を乗り切る助けになる」。08年11月、中国が発表した4兆元の景気刺激策に対し、IMF(国際通貨基金)のストロスカーン専務理事(当時)は歓迎の意を表明した。中国の投資依存型の成長モデルは世界経済のリスクと認識されていたが、「需要の消失」への恐怖が懸念の声をかき消し、危機を脱するテコとして中国の投資ブームに世界が頼った。危機の収束後、構造改革を模索した中国はトランプ政権誕生と米中対立の激化という誤算に見舞われ、そこに新型コロナウイルスのショックが追い打ちをかけた。 習近平国家主席が「家は住むためのもので、投機のためのものではない」という言い回しを使いはじめたのは16年のことだった さらに時計の針を戻せば、この20年間、中国を世界経済に組み込むプロセスそのものに火種は潜んでいた。 岡三グローバル・リサーチ・センターの高田創氏は米中の歴史観のすれ違いを指摘する。「中国の戦略の根底には19世紀以降の停滞を取り戻す『中国の夢』がある。一方、米国は01年には中国を国際社会に引き入れる大きな契機となった世界貿易機関(WTO)加盟を主導したが、『戦術的忍耐』を経て、現状は『封じ込め』が必要な脅威とみなすに至った」(高田氏) 経済が発展すれば、いずれ中間層の「内圧」で民主化が進む――そんな楽観論で異形の統治の温存を正当化しながら、世界は中国経済の成長の果実を分かち合ってきた。経済優先で中国の大国への歩みを後押ししておいて、君子豹変(ひょうへん)とばかりに脅威論一色へと転じるのは、ちぐはぐな感が否めない。 現実を見れば、「米中の経済は相互補完関係にあり、中国はすでに『封じ込め』やデカップリングの対象にはできない」(高田氏)。世界経済の2割弱を占め、株式時価総額でも米国に次ぐ巨大市場となった中国は「大きすぎて無視できない(Too big to ignore)」。中国の債務問題は、対岸の火事でも「敵失」でもなく、コロナショックから立ち直りかけた世界経済への脅威のはずだ。国際協調で向き合う土台がない現状は、米中の20年来の同床異夢の根深さを象徴する。 22年には5年に1度の共産党大会が控える。「中国政府はインフラ投資などで成長を下支えし、ソフトランディングを演出するだろう」(SMBC日興のヨー氏)。恒大の処理でよほどの不測の事態が起きない限り、現時点ではすぐに経済やマーケットに深刻な影響が出るとは考えにくい。 だが、「23年以降は不動産と負債の処理が中国経済全体の問題になり、成長が減速する懸念が強い」(ヨー氏)。バブルの後始末と高齢化、米中対立の三重苦で中国が日本型の低成長期に入りかねないリスクは、まだマーケットに織り込まれていないだろう。中国の債務問題はいったん「灰色のサイ」に逆戻りするかもしれない。だが、時限爆弾が時を刻むのを止められるわけではない。

#日経COMEMO #NIKKEI

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