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『自分とか、ないから。』(しんめいP さん著)を読んだ

しんめいPさんの著書『自分なんてないから。-教養としての東洋哲学-』を読んだ。

しんめいP著『自分説かないから。-教養としての東洋哲学-』

短い感想

面白い!思想に関する本を、声を出して笑いながら読んだのは初めてかもしれない。読んで心が少し軽くなっている自分に気づいた。それは、著者がカッコつけずに、悩んで、その中で東洋哲学に向き合って自分の体験を言葉にしているからだと思う。面白さの背後に、深い学びがあるから、読んでいて心に響いてくるのかもしれない。東洋哲学をもっと学んでみたいと思える。私も自分の仕方で、東洋哲学を学んでみたいと思えた。

自分にはまとまった文章を書く力がないので、立派なレビューのようなものはとても書けないのだが、以下に、少しだけ思いついた感想を書いていく(再読して後日またあらためて書くかもしれない)。

読んで感じたこと

本書は、東洋哲学・仏教の入門書として今までにない本なのではないだろうか。中学生・高校生など若い人におすすめしたい。

これまでも、分かりやすく優れた仏教の入門書とか、東洋哲学の入門書は多くあったと思う。
それらの中には、分かりやすいのだけれども、あくまで教科書的に分かりやすいというか(ムック本的というのだろうか)、知識が上手く整理してあって、そういう考え方なんだなということ分かるけれども、それが自分の人生や生き方とどのようにつながるのか分からないものも、やや多かったように思う。だから、知識として、あるいは考えの枠組みは理解できるとしても、それが自分の実際の人生とどのようにつながるのか分かりにくいきらいもあったように思う。
あるいは、専門書は身を入れて読めば面白いものが多いのだが、その本を読むためには前提の知識がかなり必要だったり、何度も読み込まなければいけない。面白さが分かるには一定の訓練が必要だったりする。
しかし、『自分とかないから。』は、仏教や東洋哲学の概念が、極めて分かりやすく書かれているのと同時に、そういう哲学や思想が「自分の人生にどうかかわるのか?」「どのように人を救うのか?」という問題に自問し、自答している。しんめいさん自身の「実験」とも言える試行錯誤が描写されているのである。そこがこれまでにあまり無かったように思う。

今までに読んだことのないような、不思議な文章だとも感じる。
様々な出来事があってニートになって、布団の中から出られなくなったしんめいさん。東洋哲学がどのように氏が生きることを支え、氏の心を楽にしたのかが高い解像度で書かれているのが面白い。
この本は「あるニートが東洋哲学で救われる道筋」が書かれた本だと感じる。しかしそれを一つのモデルとして、様々な問題で悩む人が、自己の人生の上で、どのように東洋哲学がはたらくのか考えたり、どのように応用できるのかを考えたりして想像を膨らませながら楽しめるようになっていると思う。
誰かの人生の具体的な事実にこそ、深く教えられることがあるように思う。
「2章」龍樹の所(「空 この世はフィクション 龍樹の哲学」)では、氏の経験してきた苦悩を想像し、その中で出会った仏教や荘子・老子の思想を大切にしてきて本当に自己や過去の人とじっくり対話してきたのだなと思って、何かそのことに「じーん」ときたし、自分もそんな風にじっくり誰かや自分や過去の思想と対話したいなと思えた。
この本を読んだら、多くの人が、そのように、東洋の思想や仏教と対話してみようと思えるのかもしれない。

この本に通底しているメッセージの1つは、”誰かと比較しなくていい”ということだと自分は感じた。現代を生きる私たちは誰かと比較して苦しんでいることが多いと思う。これほどSNSが発達した現代、比較しなくていいというメッセージもまたSNSから取り入れるという形になっている。SNS上では、あらゆるメッセージが「いいね」の価値観に取り込まれているように思うし、やはり何かそこには出口がないように思う。

現代に生きる私たちは、「比較する」という思考構造を、あまりにも内面化しすぎている。そこに風穴を開けることすら難しい。「それ以外」が想像できない。だけど、「本」は違う。SNSとは違うスピード感とリズムがある。自然環境を生きている私たちの身体とつながっている。身体性を持ったメディアが、本ではないだろうか。ゆっくりしている。

動画などもいいが、本はやはりいいなと思う。

同書から様々にインスパイアされた。

何だか、本書を通して「もっと力をぬいたら」「もっと楽に生きよ」と諭してもらった気がするのである。

新たな気持ちで、仏教や他の学びにも取り組みたいと思った。
(終)




参考文献

しんめいP著『自分とか、ないから。教養としての東洋哲学』、サンクチュアリ出版、2024年。


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