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ピアジェの5つの式 (3)

(V) 同質性 x + x = x;  y + y =y; etc.

   同質性は、ある要素を群(集合)に含めるかどうかを判断する論理である。同質のものはひとつの群に吸収される。同質性をみとめる根拠、定義も言語化する必要があるだろう。

 同質性が認められたものを集めると、それは新たな群(概念)になる。それは「または(OR)」の論理操作にもとづく、類の概念の形成である。たとえば、「オレンジ」+「レモン」(+「伊予柑」+「金柑」)=「柑橘類」、「猿」+「犬」=「哺乳類」、「桃太郎」などが考えられる。

 ある二つの概念を結びつける関係性だけを集めた概念も生まれえる。それは「関係性(AND)」の論理操作によって生まれる、関係性の概念とよべる。たとえば、「アオムシ」/「アゲハチョウ」=「ヤゴ」/「トンボ」=「幼虫」、「イザナギ」/「イザナミ」=「アダム」/「イヴ」=「夫婦」という具合。

定食の概念体系の可視化

 図は、定食が「おかず」AND「汁」AND「ご飯」という論理式で生まれることを示す。また、「汁」は、「味噌汁」OR「すまし汁」OR「スープ」であり、それは、「味噌」AND「具」AND「出汁」という論理式で描ける。「出汁」は、「煮干し」OR「鰹節」OR「昆布」OR「魚貝」OR「その他」ということになる。

 類の概念や関係性の概念は、「定食」や「汁」のような日常的概念の分析に用いることができる一方で、五官で感じることができない概念を指し示すことができる。それは日常的な概念よりも抽象度を高めた概念である。

 同じように、ANDとORの論理操作によって、かつて日本の領土であった東アジア諸国について「国」「首都」「第二都市」を使って社会科学概念を比較、分析してみよう。たとえば、第二都市が地盤沈下しているという点で、共通性が見いだせることはどう評価できるか。国交の有無や、島国か大陸の一部かという地政学的な違いは、各国の戦後史のなかでどう評価されるか。

東アジア諸国の戦後政治を概念を整理することで分析する

 

 これまで概念とは何か、概念の複雑さにはいくつかのレベルがあるのか、といったことについて十分に議論されてこなかった。ピアジェの5つの式を使って、概念に求められることを理解し、概念操作によって概念の複雑さが高まることを理解することは、重要である。学習者がこの知識をもつならば、新たな概念に触れるときや、他者の概念理解や概念操作について読むときに、誤ったことを学習しなくなり、学習効率がよくなる。

 概念についての先行研究は、ピアジェの群についての研究(80年前に公刊された)やヴィゴツキーの科学概念についての研究(90年前に公刊された)がある。この二人の卓越した心理学者は、ヒトがどうすれば正しく概念を獲得し、正しく概念を使えるようになるかを考えていた。後を生きている我々は、彼らが手掛けた仕事を完成させることができると思う。概念の吟味や精査の手法が構築されると、言語的人類はようやく学際的研究をすすめることができるようになる。

 文字の誕生にともなう言語の第二進化は、読み書き能力をもつことによって、古今東西の人々との対話が可能になることに始まる。そして、群の要求にもとづいて概念を正しく受容し、正しく操作できるようになることで、科学の学際的統合にとりかかるのだ。


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