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デジタル知能進化のロードマップ 

 これまでは、僕がどのようにして最古の現生人類遺跡を訪れたか。そして、帰国後に研究活動を始め、ヒトの言語がデジタル進化ではないかと思い、研究会活動を通じてそれを確かめてきたことを述べた。

 これからは、ヒトの言語と知能が、生命のデジタル進化の延長にあることを述べる。アミノ酸が原核生物へと進化し、それがさらに真核生物、多細胞生物、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類へと進化した。まずは、それがどのように起きたかの進化を論ずる。そして、歴史の流れのなかで知能がどう進化し、今後それらが発展する際、何が大切か、ロードマップを描いてみたい。

 

生命の跳躍進化はどのようにして起きるのか

  原核生物が真核生物へと進化する仕組みを、ダーウィンやその他の進化論者はまだ説明していない。以下で僕の仮説を紹介する。

  過去6億年の地球の歴史をみると、およそ1億年に1回の割合で、大量絶滅がおきている。それほどまで大きくはないが、中規模の絶滅は1000万年に一度の割合でおきている。周期的におきる絶滅現象は、太陽系が公転軌道上で、流星群に出会い、天体が地球に衝突するためと思われる。

カンブリア大爆発もJ/K境界も天体衝突時期と重なっている

 そのままでは絶滅するほかない、異常に厳しい生息環境を生き抜くために、生命体は遺伝子の組み換えを積極的に試みて、意味ある突然変異が生まれやすいモードに移行する。そうして生まれたのが、例えば、細胞膜、核膜、中枢神経と脳室、子宮といった、外部の熱や寒気や衝撃などから内部を保護する器官である。生体膜や神経管や子宮壁によって外部からの雑音の影響が軽減された環境で、ゲノム情報にもとづくタンパク質情報の産生、中枢神経活動、子育て環境に進化したのだ。これらの生命体は、こうして大量絶滅期を乗り越える。

 複雑化は、そのあとで起きる。時間が経過して環境ストレスが消えて、元の生息環境が回復したとき、この低雑音環境が複雑進化を生み出す培養器になるのだ。

 

低雑音環境のなかで跳躍的進化がおきる

 原核生物の細胞膜は、外部の雑音を低減する役割をはたす。おかげで、遺伝情報をDNAという安定的な核酸の形で蓄積し保持できるようになった。
 細胞の中で遺伝子情報を記録するDNAは、RNAという信号物質に置き換えられて(転写)、RNAが3つあつまって20種類のアミノ酸を指定(翻訳)する。このDNAとRNAという核酸とアミノ酸による遺伝暗号がいつどのようにして確立したのかの定説はまだない。一度に全部できたのではなく、G(グアニン)とC(シトシン)がまず生まれたのではないかと考えられている。 
 「DNA==>RNA==>アミノ酸」相互の関係は、RNAが初めにあったとする説(RNAワールド説)もあるが、核酸は生物のなかにしか存在しない。無生物の自然界に存在するのはアミノ酸だ。むしろ核酸よりも先にアミノ酸が存在していて、アスパラギン酸が進化してピリミジン塩基となり、グリシンが進化してプリン塩基となって、記録用の核酸DNAと、DNA情報をアミノ酸につなぐ信号RNAが生まれたのではないかと僕は思っている。そしてこのアミノ酸の進化は、原核生物が獲得した細胞膜という低雑音環境の中だから可能だった。
   原核生物のDNAは環状構造で保管されていて、葉緑体やミトコンドリアは、2万塩基対ほどの情報量しかもたない。億単位の情報量をもつようになるのは、真核生物が核を獲得してからだ。

 真核生物の核膜は、さらに低雑音の環境を提供する。そのおかげで、二重らせん構造によるDNAの保存がはじまり、原核生物に比べると数万~数十万倍の億単位のゲノムを蓄積できるようになった。DNAが転写されるとmRNA前駆体になる。このゲノムと非ゲノム領域が分割(スプライシング)されて、非ゲノム部分がゲノムを修飾する転写後修飾が行われて、より複雑なタンパク質を指示できるmRNAが生まれる。ミトコンドリアや葉緑体のDNA情報を核内に吸い上げて保管し、オルガネラと呼ばれる原核生物の代謝や増殖を管理する家畜化も、低雑音環境のおかげで可能になったのだ。

 脳脊髄液で充たされた脳室という低雑音環境が、脊椎動物の学習を可能にし、ヒトの意識を形成するという仮説を、デジタル言語学では提案する。これは意識を分子レベルで説明する唯一の仮説だが、まだ広く受け入れられてはいない。脳室が低雑音環境であることは、そこでおこりえる現象が想像以上にダイナミックであることを示していて、この仮説をよりもっともらしいものにする。

 勉強するときに低雑音環境が大事なことは誰でも知っている。授業中は私語をしてはいけない、図書室では物音をできるだけたてない、といったことを子供たちは教わるし、体得する。雑音があると先生の話や本の内容が頭に入らないからだ。学僧たちが学ぶ仏教寺院は、都会の喧騒を離れた深山幽谷にある。高度な知的活動には、雑音の少ない環境が必要である。

 魚類==>両生類==>爬虫類(鳥類も含む)==>哺乳類という進化のうち、特に哺乳類への進化はダイナミックである。鳥類と哺乳類だけが二心房二心室の効率的な心肺と血液循環系をもつ。羽毛と体毛によって全身を覆ったことで体温維持が容易になった。
 鳥類にはない特徴も多く、脂肪を体内に蓄積する、尿素を排出するために膀胱をもつ、胎盤を通じて母胎内の子供に栄養物を与える、生後は母乳で子育てする、耳殻という集音装置をもつ、大脳新皮質が発達して学習記憶を蓄積できる、などがある。この学習記憶を活かして、哺乳類は母親や群れの仲間と音声コミュニケーションする。哺乳類の高い学習能力とコミュニケーション能力の先に、ヒトの言語があるのだ。

このように進化を説明すると、進化しなかった生物との多様性が維持されることの説明もつく

 

 
トップ画像は、2022年日本進化学会 シンポジウム企画として採択された「進化の情報理論」の企画説明用資料より。

 

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