初めて煙草を買った25歳。
半年前にこんな記事を書いた。煙草を吸ってみたいけど、買い方も吸い方もよくわからないし吸わないだろう、という文章だ。
毎日無性に眠たくて、今日も一日寝て過ごした。
日が暮れたのでシャッターを閉めようと窓を開けたら、夜風の涼しさに目をみはった。サンダルを突っかけてベランダに出ると、ふと、「煙草吸いたいなぁ」と思った。この夜風に当たりながら一服したら、実に気持ちが良さそうだ、と。
上着を羽織って、徒歩5分のセブンに行った。レジでまごまごするとかっこ悪いので、銘柄はもう決めていた。ウィンストンだ。バニラの甘いフレーバーで、タールが少ないので初心者向きだとネットに書いてあったから。
女性が吸うイメージのあるメンソールにしなかったのは、私がミントタブレットの類が苦手だからだ。
ただ、ライターが見つからなくてだいぶうろうろした。コンドームのそばにあると友達に聞いていたが、その辺りには見当たらなかった。
結局その裏の、ギャッツビーだの汗拭きシートだのの男性化粧品コーナーで見つけた。何種類もあってよくわからなかったが、一番オーソドックスな形のものを選んだ。色はピンク、水色、黄色、グレーがあり、かっこいいからという理由でグレー。
一番タールの少ない「1」の番号を伝えると、あっけないほど簡単に煙草が手に入った。
そういえば二十歳の頃から、酒を買ったり飲み屋に入ったりしても、年確って一度もされたことないな。大学時代、バイト先の後輩たちにそう言うと、すげえ、かっけえ、と言われたのを思い出した。いつもすっぴんで黒髪なのになぜだろう。声が低いからかもしれない。
家に帰って、友達と電話しながら煙草を吸った。私はライターの点け方すらわからず、見かねた友達はビデオ通話を始め、ライターの使い方から煙草の火の点け方、吸い方まで懇切丁寧に教えてくれた。人にものを教えるのが好きな人なのだった。
19歳のときに初めてもらい煙草をしたときは、苦くて臭くて、何が良いのかわからなかった。
25歳になって、初めて自分で買った煙草を、ベランダのコンクリートに腰かけてひとりで吸った。
バニラの甘い匂いと、ニコチンの苦みが混じり合って、カフェオレを飲んでるみたいな気分になった。
一本だけでも随分長く吸っていられることがわかった。
以前バイトしていた、喫煙可の喫茶店の古ぼけた風景が、隅々まで脳裏に浮かんだ。
暗がりに、煙草の先端がぽうっと赤く光るのが線香花火みたいできれいだった。
帰ってきた夫に、「ごめんね、嫌かもしれないけど、煙草を買ったんだ」と言うと、特に嫌な顔もせずに、「一緒に吸おうよ」と言われた。
二人でベランダに出て、並んで腰かけて一本吸った。
夫は、「俺は今までもらい煙草しか吸ったことがないから、君は俺より偉い」と、よくわからないことを言った。
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