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長文感想『ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ ~扉子と虚ろな夢~』三上延

世間に古書を扱う書店は数あれど、古書に関わる人たちが抱えた「絡んだ思い」を解きほぐす経営者が商う、とても稀な古書店があるという。

この物語は、JR横須賀線・北鎌倉駅のそばにある、とても稀な古書店の物語…。

現在の古書店の店長、篠川栞子(しのかわしおりこ) のひとり娘・この春に高校二年生になる扉子(とびらこ) 。
母が商う古書店・ビブリア古書堂が参加する地元の古本市の支払レジで、店番をしつつ読書に興じています。

そこで、同じ高校へ入学する「年下の男の子」、樋口恭一郎と出会います。

「すー、すすー、すー」

変にかすれた声、というよりは息づかい。

その、変にリズムがある口笛? に導かれ、恭一郎は古書をめぐるラビリンスに引き込まれていくのです―――


このシリーズを愛読されていた方なら、母の栞子さんそっくりの彼女の姿に、思わず顔がにやけてしまう導入部(笑)。

恭一郎の祖父も、この古本市に参加する古書店の経営者。
彼もまた、祖父の依頼で古本市の手伝いに訪れたのです。

同居する母と、つい先ごろ亡くなった父、そして疎遠だった祖父…そんな事情で読書から少し距離を置いていた恭一郎くん。

けれども、古本市独特の雰囲気、そして本の話となると「立て板に水」トークが始まる扉子さんの姿に、本(そして扉子さん)への関心が湧き上がって来たようです|д゚)オヤオヤ


ここから、古本市に訪れた「奇妙な客」の登場で一気にミステリーの世界へ、という一連の流れは著者の筆致の真骨頂。

そして物語は、恭一郎と亡き父を繋ぐ本、夢野久作『ドグラ・マグラ』をめぐる謎へ…。

読み手を一気にドキドキワクワクの境地へいざないます。

このシリーズの序盤もそうですが、初々しい男女の姿を印象付ける筆致はこのシリーズが「ラノベ」と分類される大きな要因なのでしょう。(とは言っても私はラノベというジャンル自体よく分からないのですが) 

それでもこのシリーズに私が惹きつけられるのは、本と若いふたりをめぐる大人たちの心情を、ある意味赤裸々に、そして冷徹に見つめる著者の姿勢。

そこにラノベの枠を超えた深みまで感じる点でしょうか。

私も、古書をめぐるラビリンスからまだまだ脱出できないようで…。

【以下、余談】


あのラスボス(笑) と娘の将来を案じる母親に成長した栞子さん。

あこがれの存在の力になりたいと念じ、やがて一家を支える大黒柱へと経験を重ねた大輔くん。

ふたりの姿にちょっとした感慨が😅

そんなこのシリーズを振り返る動画を、KADOKAWAさんの公式で見つけました。


この本のラストを踏まえると、「扉子シリーズ」の今後の展開にちょっとドキドキする私なのです。
(もう次巻が出版されていますので…)

あのう…このシリーズでおなじみ? のラスボスさん、「後継者」にこだわる姿は昔の某アニメーションの「ワイズマン」のような。

最初のターゲットには思いを遂げられませんでしたし(-_-;)コワイ

【おわり】

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