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長文感想『信長鉄道』豊田巧

時は1987年(昭和62年)、国鉄分割民営化を控えた3月31日の夜。

名古屋にあった国鉄の工場に集合した職員たちが遭遇したのは、詰所を覆う強烈な光、そして甲高い音!

気がつくと、詰所は朝を迎えていた…そして、聞きなれないカモメの鳴き声、そして海の音。。。

窓の外には、広い工場の敷地のそばに海原が広がっていたのです!

くすんでいたはずの名古屋の空も青々と輝き、遠方には山々や田んぼの風景も―――


工場の近くに存在していた熱田神宮の風景から、ここがはるか過去の場所であることを推察した国鉄職員の面々。
この時代で、彼らが生き延びるための奇想天外なサバイバルを繰り広げる…そんなエンタメ小説です。

異変を察知して工場に集結する武者たち。
工場の線路群にうろたえつつも、織田信長配下の馬廻衆の服部という騎馬武者が名乗りを上げます。

これに物おじしない態度で相対するのは、工場で長年組合活動をリードしてきた十河拓也(そごうたくや) ・保線区検査長。

彼の果断な発想と行動力で、織田信長の軍事に協力する形で戦国のサバイバルを繰り広げることになります。

目前に迫った今川義元の軍勢を、桶狭間で迎え撃つための輸送手段・真桶狭間線の建設、尾張の経済基盤を構築するための熱田~清洲間を結ぶ真東海道本線、そして、あの「一夜城」建設のための真墨俣線…。

限りあるレールや資材をうまく使いまわして、数々の難問をクリアする様子はとてもドラマチックですし、何より尾張の町が急速に発展していくのは「鉄道の実力」を実感できて、鉄道好きとしてはなかなか楽しい面もあります。

一方で、「信長の侵攻」が徐々に拡大するにつれて、レールなどの資材の確保が不可欠となります。

そんな「国鉄集団」の根本的な問題をいかに解決するか…。
そこで、「国鉄」と信長の利害が一致することに。

信長の次のターゲット、美濃の国にはその「技術」がある―――


国鉄の組合活動の中で、海千山千の手合いとやり合ってきた十河検査長。

1980年代には夢だった、鉄道事業の活性化に触発された職員の面々が、戦国の世で生き生きと活躍する様子に読み手もワクワクが止まりません!

そんな「戦国国鉄」の可能性に賭ける十河検査長の胸には、野心めいたものが生まれていたのです…(続編に続く)。


【以下、余談(ちょっとネタバレ…かも) 】

「国鉄」の登場人物の名前は、過去の鉄道関係者から引用されています。

筆頭の十河検査長は、東海道新幹線の建設に尽力した、十河信二国鉄総裁(当時) からきていますし、その右腕の部下・石田は、十河総裁の後任の石田礼助など、かつての国鉄の歴代の総裁から名づけられています。

その中でも、リーダーの十河と反目しつつも影のように協力する「下山」なる職員もいるのですが、彼の名は、戦後国鉄が成立した最初の総裁、下山定則が由来。

多くの国鉄総裁が現場の事情による引責辞任だったのに対し、下山氏は謎を残して…。

たぶん、続編にも関連してくるのでしょうね。。。


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