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サラリーマン社長は何を思ったのか

その一報を目にしたのはちょうど5月だった。

GW、根津美術館と三井記念美術館でそれぞれ国宝を見た。
根津で見たのは尾形光琳の「燕子花図屏風」
三井で見たのは桃山時代の志野茶碗

私の感覚では、それらが何故国宝に認定されたのかわからない。

今年の5月はなんだかバタバタしている。
去年は鬱で引きこもっていた。

国宝を個人で複数所有していた川端康成。
彼は何故71歳であの逗子マリーナで、ひっそりと自死を選んだのだろう。

情報過多なので、調べると様々な説が出てくる。
自死ではなく事故だった、盟友たちの死にショックを受けた、漠然とした悲観。
結局のところは本人しかわからない。
あの世にインタビューに行けるのならば、それがわかるけど、現時点でそれはできない。
憶測はいくらでもできる。
それを掘り下げて、芸術っぽくして、洗練された人々が、旬な役者を起用して、洒落た音楽をつければ興行にもなる。
冒涜?
そんなのは関係ない、オマージュです。
そう言えば良い。


冒頭に戻る。
私がある人の訃報を目にしたのは5月だった。
13年前のこの季節、今は温暖化でほとんどの人は単衣を召しているだろう、が、この頃は暦にのっとり袷を着ていた。
「耳にした」ではなく「目にした」と書いたのは、Yahooのトップニュースで「見て」知ったから。

その頃は料亭で働いていた。
常連のお客の気心知れた仲間のTさん。
そのTさんが荒川の河川敷で死んでいるのを発見された。
首を吊っていた。

私は衝撃を受けてしばらく呆然とした。
けど、その理由はおそらくこうだったのでは?
そんなことを考えた。

Tさんは東大を出て国鉄に入った。
民営化、JR東日本でコツコツと出世し、副社長になる。
その副社長時代に出会った。

住まいが近所、なんだか気が合うお客さん。
タワーマンションの南側に住んでいて、新タワーが着工してから毎朝、ベランダの同じところにカメラを置いて写真を撮っていた。
日々高くなっていくそれは、まだ「スカイツリー」とい名前はなかった。

ご家族仲が良く、病気もなく健康、大きな会社の役員、理想的な人生。

色々なお客がいたけど、圧倒的に多いのが「社長」
その社長たちは大きく3つに分けられる。

①創業社長
②オーナー社長
③サラリーマン社長

①であり②である人も沢山いる。
①であり③の人もたまにいる。
②であり③はあり得ない。
翁は①②タイプ。

ある日Tさんたちがやってきた時
「実はね、今度の株主総会で発表されるんだけど、ルミネの社長になるんだよね」

それはそれはおめでとう御座います、そんな空気。
本体の副社長から子会社の社長。
私にはわからないけど、そこからまた本体の社長を狙えるのかもしれないし、これは良いことなのだろう、皆がそう思い祝福ムードだった。

私がアパレルにいたことを知っているので
「これからは若い子のファッションのことを教えてね」
などと言っていた。

上場企業の社長というのはサラリーマン。
会社は自分のものではないけど役職は社長。
長だけど決定権などない。
会社は株主のもの。

もう1人、仲の良いサラリーマン社長がいる。
富士通のYさん。
会長を経て現在はリタイヤ。
Tさん同様新卒で富士通に入社し、出世した。

TさんもYさんもコネのようなものは無かったはずなので、自分の力だけで出世をした人。

2人に言えるのは、人当たりが良く、偉ぶらず謙虚。
物腰が柔らかすぎて、ギラギラと貪欲に上を狙う、そんな人とは真逆な印象。
出世欲?僕にそんなものはないよ、富はなくとも穏やかな暮らしが1番だよ、そんなタイプの人。

さてTさん、何故この季節に死を選んだ?
子会社の社長に就任してから、お仲間にこっそりと
「今、僕が仕事を辞めたら年金とか、家族はどうなる?」
などと法曹の友人に聞いていたらしい。

つまり、数年前からそれを考えてはいた、といことになる。

私の憶測は、Tさんは人生を鉄道に捧げた。
そこからファッションビルの社長。
それが受け入れられなかったのでは?
勝手ながらそう思っていたし、それが1番しっくりきた。

しかし、今日、川端康成の死の真相の膨大な憶測を見ていて、何が何だかわからなくなった。

憶測は誰もができるが、真相はわからない。
死人だけじゃない、今を生きている人の本音や思想は本人さえわからない。時がある。
話が飛ぶけど、私はダッカに行った時、本気で自分の考えがわからなくなって、ショドルガットに入水しようかと思った。

Tさんは何を思って夜、河川敷で首を吊ったのか。
失恋かも知れないし、単に5月に死にたかった、それだけかもしれない。

憶測はいくらでもできるけど、それを金儲けの手段するのはちょっと嫌だなぁ。

真相は本人さえもわからない、かも。
未来、あの世にインタビューができるようになっても
「自分でもわからないんだよね」
それで終わるかも。

Tさんがいる席はいつも和やかで、平和で、健全で楽しかった。
心からの感謝。

終わり


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