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DXでCXしてIXしちゃう時代の「DXの思考法」8

しのジャッキーです。ESG/SDGsについてや、世界標準の経営理論についてばかり投稿していますが、実はIT企業に属していますので、ときどきITのことも書きます。

本って乱読しているのですが、読みっぱなしだといまいち頭に定着しないので、アウトプットを伴わしていきたいものです。ということで「DXの思考法」についてまとめてます。以降、本書の内容の忠実な引用などではなく、私自身の理解をもとに、意訳・要約しておりますのでご了承ください。

今回は第8章です。アーキテクチャが街、暮らし、社会、政府の在り方にどのように関係してくるかが語られます。

第1章のまとめ的なもの

高速変化の時代なので、今のスナップショットは一瞬で陳腐化するので、近未来をイメージして白地図を描く必要がある。本書は第2章~第4章で、デジタル時代の白地図を説明する。第5章~第8章で、白地図に自らを書き込み、地図を書き換えるとはどういうことかを説明する。
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第2章 抽象化の破壊力のまとめ的なもの

デジタル化は、共通的な手法(標準化)で解がでる範囲の水位が上がっている。そのメカニズムは、層・レイヤーが積みあがる構造、ミルフィーユ構造にある
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第3章デジタル化のかたちレイヤー構造のまとめ

デジタル化のかたちはレイヤー構造を使ったネットワーク。ビジネスの要素をばらして、レイヤー間で組み合わせ可能にする。そのレイヤーを増やしていき、組み合わせネットワークを深くしていく。そのネットワークの中から、得たい出力(価値)を引き出せるように整備することが効率化とイノベーションの源泉になる。
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第4章 デジタル化の白地図を描くのまとめ

あらゆるサービスがデジタル化する中で、デジタルインフラがレイヤー化して組み合わせて進化し続ける構造になった。これは、デジタルサービスにアクセスしてくるUIレイヤーおよび顧客体験を作るUXレイヤーにおいてもデジタル同様レイヤー構造をとることで、価値の最大化が可能となる
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第5章 本屋にない本を探すのまとめ

デジタル化に即したサービス提供システムのマップを描きそれを実現する経営を目指すことで、ヨコ割りの組織風土を実現できうる。そのためのマップは、顧客体験・課題を頂点に要素分解、その要素を実現するデジタルテクノロジーが開発要・カスタマイズ要・普及済みかを事例含め見極め、自社システムを重ね合わせたものである。このマップを俯瞰することで真に集中すべきポイントと実現方法を考えることで経営戦略に昇華できる。
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第6章 「万能工場」をつくることのまとめ

第4次産業革命やインダストリー4.0もソフトウェアが体現するレイヤー構造に製造業の姿も変わること。日本においてダイセルがプロセス業で先進事例。製造業はプロセス業化していく。サイバー・フィジカルを融合してとらえてリアル側の制約という垣根を越えてパターンを見出す能力がDX力
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第7章 アーキテクチャを武器にする

デジタル化の進展によりハードウェアや社会システムまでもソフトウェア・アーキテクチャと融合していく。レイヤーは価値を生み出す変換を実現するコンポーネント(≠具体的手順)の集まり。それらを組み合わせ可能にするのがインターフェース。価値や体験を提供するためのパターンを探索・組み合わせて解決しようとする発想・行動がアジャイル。アーキテクチャは、具体にとらわれず、抽象化により経験をパターン化し組み合わせることで、複雑系の「ややこしさ」を解決しながらシステムを実現するアプローチである。

第8章 政府はサンドイッチのようなものになる

これまでの著者的超まとめ、これらを企業を超えて、社会全体やそのガバナンスに広げていく際にヒントとなる考えを取り上げる。

・デジタル化によりレイヤー構造のエコシステムが誕生
・サイバー・フィジカル融合であらゆる企業が関係
・本棚から本を探す感覚で取り組む
・有効なアプローチはアーキテクチャという手法

システムズ・オブ・システムズ

西山氏はスマートシティのようなシステムを表すのにシステムズ・オブ・システムズ(SoS)という言葉を使う。交通、エネルギー、医療、教育といった分野別のシステムからスマートシティというシステムは構成されるということだ。

SoSには以下の4つのタイプがあるとし、今後、社会がデータとソフトウェアで駆動されるシステムだらけになる中で、企業も政府も個人もこれらの4つのタイプのシステムのカタチと関わるというのをベースに考えるのが良いのではないか、といのが西山氏のアイデアだ。

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以下、南カルフォルニア大学の2013年のコンピュータ・サイエンスの論文の中に、模式図があったの参考に乗せる。

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出典:What is a System of Systems and Why Should I Care/J. Lane, D. Epstein, 2013

このとき、これまでは、集権型もしくは市場型つまり、「政府か市場か」「官か民か」といった二分法的な理解が多かったが、インターネットに代表されるような協調型や認証型のような中間領域のカタチがデジタル化する社会の中で重要性を増す、そしてそのカタチもまたレイヤー構造だというのが西山氏の見立てだ。

インディア・スタック:政府がレイヤー構造にどう関わるか?

インドのデジタル公共基盤「インディア・スタック」が、レイヤー構造に対してどのように政府がかかわるべきかの好事例として取り上げられる(スタックとは、レイヤー構造と同義)。

インディア・スタックのもっとも基礎となるレイヤーがアダール(Aadhaar)呼ばれる個人認証基盤で、個人識別しとなる12桁の数字である。認証には、生体認証(指紋と光彩。最近、顔認証も付加)を使用され、すでに12億人以上に発行されている。

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AADHAARのサイトのキャプチャ

銀行口座を持つ人が少ないインドにおいて、補助金などの給付が不正・中間搾取の温床になっていたことが、デジタルベースの直接給付を行うことで避けられるという。

アダールの上には、e-KYC(オンラインでセキュアに本⼈確認する仕組み)が乗り、以下のように、名前、性別、年齢、住所のほか様々な情報が登録可能になっており、証明書発行や送付、電子署名など様々な機能レイヤーが加わる。

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Website: about your Aadhaarより

決済機能に関しては、UPI(統一決済インターフェース)というメカニズムを導入することで、許可を受けた、あらゆる口座にアドレスがふられ送金などの相互連携を実現している。このことで、例えば、以下の5つのようなベネフィットが得られるという。

決済機能のUPIによるベネフィット
・新たな金融事業者が参入しやすくなる
・銀行が決済を独占し続けるような市場の硬直を避けられる
・公共側が仕組みを設けることで、巨大企業による独占を予防
・許可システムの口座間で決済されることでマネロン対策になる
・他分野のアプリケーションとも連携できるAPIが確保できる

GAFAをサンドイッチで挟む

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西山氏は、インディア・スタックはサンドイッチだと表現します。そう表現する理由の部分を私なりにまとめたものが以下となります。

国内外の民間セクターサービスを一つのレイヤーとして容認し、既存のレイヤー構造に新たなレイヤーを差し込み、全体のエコシステムがもたらす効果を変えようとしている。インディア・スタックと無関係に今後の行政サービスを構想し得ない

この既存のレイヤーがあるところに、それらの既存のレイヤーが無視できない、アダール、e-KYC、UPIといったレイヤーを挟みこむ。これはインドという国の社会システムのコアな機能となるため、例えGAFAのようなグローバル巨大企業をも巻き込み、社会システム全体の味をコントロールしうることからサンドイッチと表現している。

以下はそれを表現した国際決済銀行(BIS)のレポートの図の引用です。「DXの思考法」でも言及。

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出典:BIS Papers No 106

ちなみに、いけてないアプローチを、西山氏は「データを標準化して連携すれば、いきなり価値ができる、というような食材さえ集めればどんな料理もできるということはない」といったように表現していました。

ちなみに、DXの思考法では、インディア・スタックの設計を行っているiSPIRT(インドソフトウェア製品産業ラウンドテーブル)や、リードしたインド有数のIT企業インフォシス創業者の一人、ナンダン・ニレカニ氏などについても書かれています。

また、iSPIRTはインディア・スタックのメカニズムをMOSIP(モジュラー・オープンソース・IDプラットフォーム)としてインド外へも展開する活動をしていることも紹介しています。

ローカル経済圏のDX

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兵庫香美町の自然©T-KIMURA
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)

西山氏と冨山和彦氏が提唱する、グローバル経済圏・ローカル経済圏を分けて日本経済をとらえることを取り上げる。特に、人口減少下、ローカル経済圏では、地域密着型のサービスの継続が課題であり、各々のローカル経済圏に応じて、資本集約やサービス間の相乗り・統合が必要だという。

ソリューションはローカルに、ツールは共有に

西山氏、冨山氏そして増田寛也氏は、人口減少下のローカル経済圏においては、地方公共団体と民間サービスの間をつなぐものとして「ローカルマネジメント法人」という新たな法人格を創設すべきだと考えていると述べる。

ローカルマネジメント法人
株式会社をベースとしつつも、地域コミュニティの維持や競争政策的な観点からのチェックを可能とするようなカバナンスをビルトインした法人類型

サービス毎の法人格などの取得の手間なく地域に必要なサービスを総合的に提供可能になることと、運営に必要になる住民個人データを信頼が得られるガバナンス下に置くこと、この2つを同時に満たせるようなものがローカルマネジメント法人という概念となる。

このローカルマネジメント法人が、世の中で提供されているコンポーネントを組み合わせながら地域の特色を生かしたソリューションを生み出していく母体となるというのが、この節のタイトルである「ソリューションはローカルに、ツールは共有に」ということなのだろう。

ジャパン・スタック

インディア・スタックのように政府全体の機能をレイヤー構造でとらえなおしたうえで、さらに発展させ、前述のようなローカル経済圏のDXと組み合わせることでジャパン・スタックが構想できるとし、西山氏もかかわる2つの取り組みが紹介された。

ソサイエティー5.0における新たなガバナンスモデル検討会
座長:東京大学大学院 柳川範之教授
今後レイヤー構造に加わる可能性の高い分野である「規制領域」について、規制を中心とした法とアーキテクチャとの関係を含めた今後のガバナンスの在り方について議論する
デジタル・アーキテクチャ・デザイン・センター(DADC)
今後、法とアーキテクチャのダブルバインドとなる政府の設計・運営にソフトウェア・アーキテクチャの理解が不可欠となる。そのアーキテクチャ設計官民の中間領域での行司役、そして必要となる人材育成をミッションとするIPA(情報処理推進機構)に2020年5月に設置された組織。

参考文献

DXの思考法の中ででてきた文献の一部のリンクです。

Stigler Committee on Digital Platforms / The University of Chicago Booth School of Business, The George J. Stigler Center for the Study of the Economy and the State
DXの思考法の中では「シカゴ大学のスティーグラー・センターによるデジタルプラットフォームについての報告書、と言及。
https://www.publicknowledge.org/wp-content/uploads/2019/09/Stigler-Committee-on-Digital-Platforms-Final-Report.pdf

上記レポートを見つけるにあたって、以下を参考にしました。

BIS Papers No 106 The design of digital financial infrastructure: lessons from India
DXの思考法の中では「インディア・スタックの決済機能を中心に分析した国際決済銀行(BIS)のレポート」と言及。インディアスタックの特徴を「レイヤー構造のアーキテクチャであり、破壊的イノベーションのメリットを規制フレームワークの中に取り込んだもの」と表現していると説明。
https://www.bis.org/publ/bppdf/bispap106.pdf

第8章のまとめ

以下、第8章の私なりのまとめです。

社会・政府とシステムの関係は相互連携になる中、公共システムは既存システムレイヤーに新しい相互連携を促すキーレイヤーを挟み込みエコシステム全体の価値を変えていく、サンドイッチ型になっていく。
ローカル経済圏DXにおいては、総合サービス提供と個人データの信頼の担保のガバナンスを同時満たす「ローカルマネジメント法人」が望まれる。
上記の2つと規制のレイヤー構造化を組み合わせたものがソサイエティー5.0を支えるジャパン・スタックになってゆく。

DXについての記事は以下の「マガジン」にストックしてますので、併せて覗いてみてください。

ということで「形のあるアウトプットを出す、を習慣化する」を目標に更新していきます。よろしくお願いします。

しのジャッキーでした。

Twitter: shinojackie

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