見出し画像

「当事者」とは何か~トランスジェンダーの高校生、くろまるさんへの取材~

篠原梨菜です。TBS入社2年目、23歳です。アナウンサーとしてニュースをお伝えしながら社会について学ぶ日々をおくっています。

「篠原梨菜の取材log」

これから、「篠原梨菜の取材log」と題し
YouTubeにて配信を始めていきます。

私篠原が、特に気になったニュースを深掘りするため自分でカメラを持って現場へ。

自分自身の目線を大事にし、アナウンサーという仕事を超え1人の人間として様々な“現状”や“声”を届けていきたいと思います。

トランスジェンダーの高校生、くろまるさん

今回取材したのは、こちらのニュース。


トランスジェンダーとして、公立中学校での制服選択制を求め、1万人を超える署名を江戸川区長に提出した高校生・くろまるさん

このニュースが気になった理由は、学生時代にくろまるさんと同じような取り組みをしていた同級生がいたことです。私は彼女を応援したい、何かできることがあったら協力したいと思っていました。

しかし当時、本人からそういった取り組みについて直接話されたことはありませんでした。

「セクシュアリティというプライベートな領域に、仮にポジティブな気持ちであっても外から踏み込まれたらどう感じるのだろう。」

そう思って、結局何も伝えることなく学校を卒業してしまいました。果たして、本当にそれで良かったのだろうか。

蘇る学生時代のモヤモヤした気持ちと、カメラを持って取材に行ってきました。


心理的距離の近さ

8月某日、くろまるさんが暮らす江戸川区にうかがいました。

くろまるさんは署名活動やそれに関する取材など、公に活動されているとはいえ、きわめて私的な領域のお話を伺うこともあり、インタビュー当日は質問内容を反芻しながら、どういう言葉をつかうべきなのかとぐるぐる考えながら待ち合わせ場所へ向かいました。

わたしの緊張とは裏腹に、とても和やかな雰囲気で進んだ取材。くろまるさんはバイトのことや学校のことなど、沢山お話をしてくれました。
喫茶店でふたりで少しお話をした後、くろまるさんが参加しているLGBTコミュニティ江戸川の七崎良輔さんと荒川暁子さんの待つ部屋へ。
おふたりは、くろまるさんと一緒に署名活動をしてきた仲間です。
時節柄一定の距離は空けつつ、座談会のように畳の上で車座になりました。


「大人になる前に死にたかった」

「今となっては、笑えるんですけど……」

と前置きして、くろまるさんはいろんな過去の出来事を話してくれました。

そのうちの一つは、
中学時代、女子と男子で体育着のデザインが違い、女子用の体育着を着なければならないことがつらく、しかたなく男友達に体育着を借りて体育の授業に参加しようとしたら先生に「なんでそんな服着てるんだ。気持ち悪い。」といわれたこと。
その後学校をしばらく休んでいたくろまるさんに、その教師が「なんで休んでいるのか」ときょうだい伝いに聞いてきたこと。

「それはあなたがそんなことを言ったからでしょうと。」

おかしな話ですよね? と少し笑いながら、力強く投げかけたくろまるさん。LGBTコミュニティ江戸川のメンバーのお二人も、わたしも、その場にいた全員が真剣な顔でうなずきました。

これはくろまるさんが話してくれた苦しい体験のほんの一部ですが、江戸川区のLGBTコミュニティに参加し、彼の気持ちをわかってくれる人が周りにいる今だからこそ、「おかしいよね?」と話せることなのかもしれないと思います。

二十歳になる前に死にたいと思っていたというくろまるさん。

こどもに、「大人になる前に命を絶とう」なんて思いを抱かせてはならないことは明らかです。

取材の間くろまるさんがとってもフラットに話してくれて、短い時間ではありますが心の距離も少し近づいたように感じていたからこそ、「大人になる前に死にたかった」と聞いて胸がグッと詰まりました。

「当事者」とは誰?

「くろまるさんの周りにいた大人たちが悪いんだ、その環境がよくなかったんだ。」

そう言ってしまうことは簡単ですが、わたしたちは本当に子どもたちにそういう絶望を抱かせていないといえるのでしょうか。何の気なしの発言や、システムがはらむ問題への無関心によって、無自覚のうちに子どもたちを追い詰めてはいないのか?

わたし自身、こういう問題について自分は「当事者」ではないという認識を持っていました。しかし、LGBTQの当事者ではなくても、不寛容な社会のあり方に無関心であることによって、無自覚にいろんな人の尊厳を踏みつけてきたかもしれない。そう思うととても苦しいですが、踏みつけられてきた人たちの苦しみとは比べることすらできないでしょう。

くろまるさんは「制服選択制が実現することで、自分と同じようにつらい思いをしている子どもたちのためになれば」と語っていました。コミュニティを通じて、トランスジェンダーの子どもたちとコミュニケーションをとり、学校の話を聞いたりすることもあるそうです。

このインタビューをより多くの人に観ていただき、
「今も人知れず苦しむ子どもたちが周りにいるのかもしれない」
同じ社会の一員という意味での『当事者』として、苦しみに寄り添ってあげたい」と
すこしでも思っていただけたら、幸いです。


追記:この動画が公開されたあと、くろまるさんと同じような取り組みをしていた同級生から久しぶりに連絡が来ました。内容はとても嬉しいものでした。「伝える」ということでいったい何ができるのかということを考えます。

くろまるさんの取り組みによって、現状がどのように変わっていくのか見つめていきたいです。くろまるさん、七崎さん、荒川さん、ありがとうございました。