うれしい手紙

もう20年ほども前になりますが、上の子が小学校にあがる1年前に、近くに住むロシア人一家と親しくしていました。
再婚同士で赤ちゃんが生まれたばかり、ご主人は京大に招聘された数学の研究者、奥さんには14,5歳と、小学一年生の女の子の連れ子がいました。小学一年生の子、サーシャ(アレクサンドラ)はわたしの上の子と年が近いこともあり、ふたりはすっかり仲良くなってしょっちゅう遊んでいました。夫同士も理系ということもあってかウマがあったようで、家族ぐるみで親しくつきあい、よくパーティーをしたり一緒に旅行に行ったりもしました。
知り合ったころはまったく日本語がわからなかったサーシャは、小学校に通いだして1か月もするとぺらぺらしゃべりだし、両親は日本語がわからず、赤ちゃんができたばかりの蜜月な感じだったこともあって、サーシャはよくわたしとしゃべっていました。我が家が遊びにでかけるとき、サーシャも連れていったりしていました。
ご主人が海外の学会に奥さんと赤ちゃんだけ連れて上の二人を日本に置いて一週間ほど出かけるときいたときはびっくりしましたが、夫は「ロシアではよくある」と平気なものでした。自分の価値観を押し付けるのもなんだけれど、心配だったのでから揚げをつくってポストに押し込んだりしてました。あとでサーシャから「から揚げ、いれたでしょう!」とニコニコ言われました。
そんなサーシャが、覚えたての日本語でひらがなで「まり いつもありがとう だいすきだよ」と書いた手紙をくれたときは、ほんとにうれしかったです。
招聘期間が終了し、一家は帰国。当時はメールでの連絡もそこまで活発ではなかったのでいつの間にか連絡が途絶えました。彼らの住む町はモスクワからは遠く離れた田舎でしたが、「いつかマリがここに会いにきてくれる」とサーシャが信じてる、と人づてにきいて心が痛みました。
数年前、ご主人が亡くなったことをとある数学系の学会のページで発見しました。サーシャはいま、どうしているだろう。わたしのことを覚えていてくれるだろうか。古い写真や思い出をしまい込んでる段ボール箱をあさったら、あの手紙がでてくるといいな…。

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