2年半ぶりに前職のパワハラ元上司に会って、現在の幸せが身に染みた

「ぎぃえええええ~!」
内心叫んだのは3週間ほど前。
いや、内心ではなく、つい声がでて、事情をまったく知らない隣の席の同僚にまで簡単に事情を説明した。
彼は当然ながら、「はあ、そうですか」としか言えなかったが…。

とある趣味の会でグループ予約して参加している、年に一回の豪華イベントがあります。半年ほど前の参加者締め切りの際に彼女の名はリストになかったので、安心しきっておったのです。

それが、3週間前になり、行けなくなった人がおり、しかしチケットはキャンセルできないので急遽、Aさんが快諾してくださったので行くことになりました!とのお知らせ。
そのAさんとは、現在わたしがたのしく参加しているこの会を紹介してくれた恩人でもありながら、3年前、わたしを適応障害になるまで追い詰めた元上司でもあるのです。

職場で鬱や適応障害になった方はわかるかと思いますが、簡単に「逃げたらいい」とか「こうしたらいい」とかいう指南が出回っていますが、生活もあるし、そんなに簡単に逃げられませんよね。
訴えても取り上げられてもらえなかったり、いろんな人間関係や好き嫌いがあるから、自分を窮地に追い込むだけだから、声をあげられなかったり。制度上、いちおうメンタルテストがあったり、カウンセラーとの面談があるけれど、本当に手厚く対応してもらえるのは正社員だけで、あとは形だけで、救われることはない。

それに、パワハラの当事者って自分のせいだと思わないのか思いたくないのか、あの激辛カレー食べさせ教師の「女帝」がのたまってた「どうしてこういうことになったのか」「自分としては、愛情をもって接していた」みたいなひとって、結構多いのではないでしょうか。
傍からみたら、パワハラ明らかなのに、やってる本人だけ気づいてないってやつ。

Aさんの部下として働いた前職は名の知れた大手企業でAさんは正社員の出世頭、エリート有望株でわたしはその大手内で転々としていた契約社員といった立場でした。
当時わたしのいた部署に上司としてAさんが異動してきた、という形だったのですが、前の部署にいたときから、Aさんが非常にコワいひとで、いじめられた、つらい目にあった、というひとの話をきいていました。Aさんの異動をきいて、噂を知っている別部署の知人友人たちからも
「大丈夫ですか?」
と心配され、戦々恐々としていました。

いやはや、ほんとに怖かったです。
Aさんと一緒に異動してきた、Aさんの上司にあたる辣腕のB部長とともに、これまでの体制が一切変わりこれまで認められていたいろんなことが認められなくなりました。
先進的で、自由にやれるのが特長の部署だったはずなのに、旧弊な、頭の固い、カビのはえたような部署になりました。
それまでが自由にやりすぎて、たしかに体制を整える必要もあったとは思いますが、一方で、明らかに彼らの「唯一正しい」論理があり、ほかの可能性を無視、否定するという専制的体制でもありました。

そこでわたしはというと、もちろんAさんにへつらってご機嫌取り、彼女の言うことは絶対、ご意見に間違いはございませんとも。という態度でした。

それで2年ほどは無事だったのですが、彼女の泥除けになっていた正社員が異動し、耐えかねた派遣社員が辞め、わたしが彼女からの重圧を受け止める役目に。
「これぐらい、できて当然でしょ」と(実際、彼女自身有能なのですよね)どかどかと心身共に処理できない案件を振られるようになり、そしてわからないことがあって聞きに行くと
「どうしてわからないのでしょうか」
と能面のような顔で静かに言って対処法は教えてくれない。
わたしが運営を任された200人規模の合宿で
「この社員はこういう問題があるからこの会には泊まりでは参加させられない」
とおっしゃるので宿泊メンバーから外していたら当人からAさんに文句がはいり、そうすると
「篠木さんが勝手に決めたことで、わたしは知らなかった」。
あとでB部長の話をきく機会があったのですが
「失敗は部下のせいにする」
お方だったということです。

仕事ができるだけでなく、文化教養についてもひろくいろんなことを知っておられ、身ぎれいにしていらっしゃるし
なにより「尽くします」感がすごいから、60歳以上のえらいおじさま幹部の受けがいい。
そういう方にありがちな、部下からは恐れられ、好きだというひとはたぶん、ひとりもいなかったと思います。
あるとき、部下のひとりがグループメールで彼女のあだ名、揶揄して丁寧に呼んでいる呼び名をいれたメールを間違えて彼女もCcにいれて送ってしまったことがあります。慌ててお詫びメールをいれてたけれど、そのときのAさんの凍り付いた能面な表情といったら…。
間違えた同僚も、なかなか強いひとだったので、「ま、もーしゃーないわ」と開き直っていました。

わたしは、「もうこれ以上無理」と思ったものの、担当のイベントが6月で終わることから、それから楽になる…と信じて取り組んでいましたが、イベントが終わったら終わったでその後始末がけっこう大変で。
しかも、最初から正社員のAさんは、いろんなことを知っています。正社員は入社当時から就業時間を使っての、いろいろな研修があり、組織のことや、組織内での効率的な仕事の進め方、また必要な技能の補助クラスなど手厚い環境が用意され、またエリートのAさんはさらにいろいろな経験もあり
いろんな場面での、この組織での処理の仕方などを知っています。

一方、わたしを含む、派遣、非常勤、契約社員はある程度のことができて当然ということで雇用されており
だからといって、組織のことをすべて知っているわけでもないのでどうしても、まずは教えてもらわないと進められない部分があるのに教えてもらえない、きいても教えてもらえず
「どうしてこういう風にするのでしょうか」
と冷たく言い放たれるだけで、内心
「なにをどうしたらいいか、感情抜きで淡々と指示してくれたら、ずいぶん仕事もはやくすすむのになー」
と何度も思ったことでした。

そう、Aさんは静かに、淡々と言ってはいるけれど、実際のところ、その姿、雰囲気から
「わたしは非常に不満です」
というオーラを発散しまくりでした。取り付く島のない、「静かな怒り」でした。

結局、9月に「もうほんとに無理」と思い、医師の診断書があれば1か月ほどの病休をとれるらしいので、メンタルクリニックに駆け込みました。
しかし、ネットで調べて行った最初のクリニックはとんだはずれで、
もともとは脳神経外科が、メンタル相談もしているような爺さんで
ろくにわたしの話もきかずに「わかります」ばかりを連発し
「わかりますわかりますわかりますよ。
でも、あなたの話を一方的にきくのもね。もしかしたら、その上司の言い分だってあるかもしれない。
あなたができないだけかもしれない。
休職したいなら、診断書書きますよ、でもはっきり上司のせいって書きますからね」
と言われて、困り果てて帰りました。

それでもいよいよ、追い詰められた感があったのでもう一度、別のクリニックを訪ねました。
そこは落ち着いた女性医師が柔らかな態度で話をきちんときいてくれて、大げさでなく、
「まあ、そんなに大変だったんですね。
あなたが仕事ができないなんて、そんなことないですよ。
これだけのことをひとりで回したなんて…」
と言い、薬に依存するようになると怖いというわたしに
依存性のすくない、一番弱いくらいの精神安定剤を処方してくれ、
原因が上司にある、とはっきり書くのではなく、仕事の重圧で、のような書き方で適応障害の診断書を出してくれることになりました。

3日後にできるというので、さっそく翌日職場に行き、その旨上司に報告すると慌てだし、もう3年前なので細かな場面は忘れたのですが、上司とその眷属からいろいろ言われて1か月ではなく、ちょうどその頃シルバーウィークだったのと、医師の診断書をださなくてもとれる3日間の病休を使い、
1週間だけ休むことになりました。
「診断書なんて書いてもらったら、お金もかかるしね」
と、わたしの懐の心配をしているようなふりをしていましたが、いま思えば、適応障害の休職者がでると自分の評価に汚点がつくからなんとしても避けようとしていたのですね。

それでも、1週間ほど休めたのはありがたく、元気になって職場に戻れましたが
Aさんは、そういうことがあると、2,3日は気を使って優しくなりますが
結局すぐ元に戻るのです。
そういうことを繰り返して、定期的にメンタルクリニックに通い、精神安定剤を服用しつつ出勤していましたが
とうとうもう無理!となり、12月にB部長に「今年中に辞めたい」と直接言いにいきましたら
「Aなら、来春異動になるよ」
とのことで、茶飲み話みたいな感じで引き留めてくれ、なんとか持ちこたえました。
年が明けて、かなりきつい時期もありましたが、B部長のおかげでなんとか生きていけました。
B部長も、直接の部下には相当怖い方のようでしたが、わたしにはそれなりに優しく、Aさんの攻撃から守られた部分が多々あり、いまでも感謝しています。

つらい日々にようやく春がきて、B部長の言葉通り、Aさんは3月末に異動になりました。
Aさんが異動したとたん、嘘のように「仕事いきたくない」悩みは消え、精神安定剤は不要になりました。
このことを報告して、「よかったですね」とメンタルクリニック通いは終了しました。
「適応障害は、原因がなくなるとよくなる」というのを身をもって感じました。

しかし、メンタルクリニックも大変だな~、と通っていて思いました。
わたしはたぶん、扱いやすい、症状の軽いほうだったと思います。
待っている患者さんのなかには、わたしと同じように仕事関係で病んだとみえるひともいれば、別種の精神疾患をわずらっているんだろうなあ、と思われるひとも多々おられ…
その相手、対応も大変だろうなあと思ったことでした。

それから1年後、わたしは転職しました。
5年以上非常勤で雇用した者は無期限雇用に転換しなければならない、という無期限ルールの裏返しの「雇止め」です。
いちおう、前職では気を使ってくれてそうなることを前年末にお知らせしてくれました。
実は、そのルールがあっても逃げ道があったようで、その年に該当する3人のなかでひとりは組織がどうしても雇用を続けたいひだったらしく、なんらかの形で雇用を続けたようです。わたしと、Aさんのあだ名メールを送っちゃったひとは、サヨウナラ。

申し渡された当時は、多少英語ができるとはいえ、とくに資格もなく、いまさらその会社外で新しい仕事がみつかるのか…と暗澹たる気持ちになったものですが、自分のターゲットを決めて就職活動を進めた結果、現在の職場での就職が決まりました。
この職場の面接にきたときに、すごく「いい感じ」がしたのですが、自分の直感を信ずるべきだな、とますます思う今日このごろです。

文字や数字には表れてこない「感触」、「実感」を大事にすべし。
もちろん、どの職場も完璧ではないけれども、いまの職場は限りなく、わたしの性格、感性に合っており、わたしのおもしろがりなところ、臨機応変なところ、能力をさまざまな面で評価して使ってもらえている、大事にしてもらっているという実感があります。
社長の「あり方」、仕事の仕方も共感できるものです。

前職にいたころは、その名を出すと「すごいね」と言ってもらえる大企業だったので、たかが契約社員なのに自慢でした。
でも、そこについていくために必死で、風向きどり、おべっか使い、太鼓持ちなひとびとをみて
そして自分自身がそうなっているのがほんとに嫌で、しかも、「できる」自分でありたいがため、会社に迎合するために、そこにいる間は自分の感性に封印をして感性が枯渇していってる感じがなんとも嫌でした。でも、生活しなければならないのだから、この仕事にしがみつかないと、と…。

今回、Aさんが参加することになり、また過去の苦しかったこと
嫌だったこと、嫌いだった自分のふるまいや周囲との関係を思い出しました。
キャンセルはできないから、しれっと参加はするけれども、と思いつつ、一日一日とその日が近づくにつれ戦々恐々として
できるだけ、思い出さないよう、思い出さないよう…夫に言うと
「彼女は過去のもの。いま、彼女に力はない」
それは、わかってるんだけど、怖いよう…。

前日には、大きなイベントで東雲色でつるりとした触感の素敵なワンピースを着た彼女が中心人物をつとめている夢をみました。

腹をくくって出席した会。
にこやかに挨拶して、あとはほとんど話しかけませんでした。
彼女からも、ほぼ話しかけてきませんでした。
皆としゃべる彼女の様子、受け答えのさま、そしてわたしへの若干イラっとした態度からみて、わかりました。
彼女が、わたしがこれまでの上下関係を保って彼女に敬意をもって接し、控えめに行動することを望んでいたことを。

この会に紹介してもらったことは感謝しています。
会の方々は、ほかでは出会えないくらい、知識教養があってそして気取らない、一緒にいて楽しい方々ですし、計画されるイベント、どれもたのしい。
ただ、いつまでもそれに感謝して低姿勢で、彼女より下の立場であることを明確にしつづけろ、と思われていても困ります。
実は、わたし自身が前職にいたころ、というかごくごく最近までそうすべきと思い込んでいたんです。

でも、今回参加して、実際彼女に対峙したとき、
「かつては上司と部下だったかもしれないけれど、いまはもう違う会社に所属して、その関係は解消している。
日本の社会では、、、と言われるかもしれないけれど、わたしはそういった考えは変えるべきだと思う。
この会に紹介してもらったことは感謝しているけれど、いま、会の参加頻度はわたしのほうが彼女より多く、コアメンバーと仲良くフランクな付き合いができているから、急におどおどできない。ひたすら『わたくしめは謙虚にしております…ホラ、あんたも!』と求められても、それはわたしの本来と違うのでお応えいたしかねます」
とはっきり思えました。

そして、そんな考えのできる自由な自分になれたこと、1年半たってようやく前職での「べき」呪縛から放たれた自分に気づけたことがとてもうれしい。

しかし、そうは言っても、彼女が近くにいるあいだずっと
「ああきっと、こういうことを思ってらして、わたしがこう動き、言うことを内心求められていて、こういうとがご不満なんだろうな」
と気にしていたため、解放されたあとは、めったに頭痛のないわたしが激しい片頭痛に悩まされました。

それも、今朝目覚めたら、すっかり治っていました。


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