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マリアのジャケット(ショートストーリー)

マリアは6年前にバールの権利を買った。元のオーナーはイタリア人の老人で「そういう時代だね」と何度も言った。中国人の経済力がついたのではなく、彼の息子がバールをやりたくないだけだと思ったが、何も言わなかった。

その時からマリアのバールは「Bar 24(バール ヴェンティクアトロ)」から「Bar dei cinesi(中国人のバール)」と呼ばれるようになった。この国では中国人が経営する店はすべて「dei cinesi」と呼ばれるようになる。中国人のスーペルメルカート(スーパーマーケット)に中国人のネゴッツィオ(商店)。

バールは朝7時半から夜19時半まで営業していて、マリアは主に朝、妹のキアラが午後を担当していた。

マリアの子どもが小さかった頃に、そんな分担に落ち着いたのだった。その頃、キアラはまだ大学生だった。

マリアはジャケットが好きだ。肩に薄めのパッドが入った細身のジャケットをノースリーブのトップの上に着るのが彼女のスタイルだ。できれば、ジャケットの襟元は広めに空いてる方がいい。その方がマリアの胸元をキレイに見せることができる。

キアラは「飲食店で働くのにそんな気取った格好をして!」とマリアに告げたこともあったが、マリアは一切気にしなかった。服を汚すことは殆どなかったし、何より服が汚れたら新しい服を買う口実ができる。

高くないが、高く見える掘り出し物をメルカート(市場)で見つける能力があることがマリアの自慢だった。実際、彼女が手に取るものは彼女にしか似合わない独特の輝きがあった。

「あなたは、自分のことだけは本当によくわかっているのね」とマッダレーナは言った。「あなたにしか似合わない服を選ぶのが本当に上手い」と、マッダレーナの店のセール品の中からでも、似合う商品を魔法のように見つけるマリヲを褒めた。

「バールがもっとうまくいったら、ここじゃなく、モンテナポレーネ通りで買い物するからね!」とマリアはビニール袋に入った服と20ユーロ札を交換しながら言った。「私だってそうするわよ」とマッダレーナはウインクしながら答えた。

マッダレーナはマリアが実はバールを3軒経営し、4軒目のオープンを計画していることはもちろんしらない。


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