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短歌アイデア帳003「空白・スペース」

短歌の表記(その1)

 素朴な疑問です。句と句の間を空けて書くべきなのか、空けずに書くべきなのか。僕は正直、よく分からなかったです。でも最初に正解を言ってしまうと、「空けなくてよい。空けることを必要とするならば空けてもよい。」です。「はい、おしまい。」と言いたいところですが、ここでさらに素朴な疑問が生まれてきます。「空ける必要があるとき」って、どんな時でしょう。ちょっと考えてみたいと思います。


各句の間に空白(スペース)を入れること

 僕は、短歌をやり始めた時、すべての句の間に全角スペースまたは半角スペースを入れていました。理由は「折り句」という技法を使った短歌を多く作っていたので、初句から結句までの五句の切れ目4箇所がしっかり分かるようにしておきたかったためです。そういう意味ではスラッシュ「/」でもいいんですけど、うるさくなりますよね。気になるっていうか。スペースなら気にならないかなと思って、ふつうに使っていました。
 ところが、ある時、こんな出来事がありました。いつもどおり、投稿サイトに短歌をアップした後のことです。僕ではない別の人のコメント欄に「句間のスペースは、何か意味がおありですか?」みたいなことを評で書き込まれている人を見かけました。なぜか僕のは指摘されなかったのですが、他人事のように思えず、実際のところどうなのかなと思って簡単に調べてみました。

ほかのみんなはどうしているの?

 まずは、そのサイトに投稿されている短歌から見てみましたが、なるほど、空白をわざわざ入れる人はほとんどとゼロに等しいです。極稀に、部分的に一・ニか所ほど、さり気なく半角スペースを入れている人もいますが、その日の投稿では、他は入れていませんでした。そういう意味では、僕の歌もかなり目立っていました。全角スペース4個がしっかり入っていましたからね。

空白を入れるのは間違いか?

 じゃあ、全くの間違いかと言うと、そうでもないみたいです。過去の有名な歌人が詠んだ歌の中には、句切れの境目をしっかり表すために、言い切りの部分に使ってあるものもあります。例えば、文豪でもある森鴎外の短歌には、全ての句の間に空白が入っているものもあります。他にも、大熊伸行(おおくまのぶゆき)、西村陽吉(にしむらようきち)という人の歌は、はっきりとそれ(言い切り)が分かるように書かれているものもあります。さらには、会津八一(あいずやいち)という人の歌は、彼が書家でもあったためか、すべてひらがなの歌を作っています。さすがに、「ひらがなマシンガン」では何が書いてあるのかわからないし、誤解も出てきそうですよね。そこで、句単位ではなく語単位で空白を入れるという、短冊に書いた仮名歌をそのまま表記するみたいな使い方をしています。だからだと思いますが、歌集でもそれにならって、平仮名と多くの空白が使われています。そしてもう一人、佐々木妙二(ささきたえじ)という人は、自由律短歌の歌人ですが、文節単位で空白を多用した歌を作って発表しています。かなり定型から外れた歌があり、これも、切れ目をはっきりさせないと別の意味でよくわからない歌になってしまいますよね。便宜的に使っているのだと思います。図書館から借りてきた、窪田章一郎・武川忠一編「現代短歌鑑賞辞典」(東京堂出版、平成10年5月15日、第15版)をざっと見ただけで、これだけ目につくわけですから、決して悪いことではないようです。そういう意味で、使う必要があるなら使ってもいいということなんですよね。もちろん、句切れがあっても空けない人が圧倒的に多いのも事実なのですけれど…一つ一つの歌については、著作権が引っかかって来るものもあるので、詳しく知りたい人は、これらの歌人の歌集をあたってみてください。該当する歌に必ず出会えるはずです。
 上記の歌人以外にも、釈迢空(しゃくちょうくう=本名は折口信夫)という歌人がいます。この人の歌は、比較的、空白を自在に(好きなように)使っている雰囲気があります。また、よく見ると、さらに他の歌人と表記上大きな違いがあることにも気づきます。ですが、そのことについては、また別の機会にということで。

まとめ

 要するに、具体的に調べてみても、どうやら、空けても空けなくてもいいというのが結論になります。目くじら立てて言うほどのことではないと。ただ気をつけてほしいのは、「どうして、空白を入れたの?」って聞かれた時に、はっきりとその理由なり事情なり目的なりが言えるということが大事になるでしょうね。入れないほうが見た目もすっきりコンパクトになりますから。逆に空白がなくても読める歌を作るということも理にかなっています。それを、あえて入れるのには余程の理由があるのかなと思う人も当然出てくるわけです。まあ、だからと言って、何となく雰囲気でちょこっと使っている人などを指摘・批判するのは、それこそ間違っていると思います。表現の自由を否定する行為に該当しますからね。むしろ、それで何かしら表現上効果があるのなら素敵じゃないですか。そうじゃないんなら、止めたほうがいいと思いますけどね(笑)