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物語「星のシナリオ」 -47-


虹はどこへ繋がっているの?

きみが行きたいところだよ

きみはもうわかっているはずさ

だって、きみの想いがボクを呼んだんだから

きみが怖いと思うと虹が細くなる

この旅でいちばんの大敵は恐怖心

ほら、こうやって楽しくステップを踏むだけさ


ボクの想いが、この虹を創り出し猫を登場させ、原点でもある星の世界へボクを導いた。まるでファンタジー。

それぞれの体験している世界は、それぞれの想いが創り出した世界。
そう感じると、すーっと身体が軽くなって、笑い転げたい気分になった。

大まじめに進路のことで悩んでいたボクも、猫と虹を渡っているボクも、同じボク自身が描いた世界を生きている。

だとしたら、この先の自分の人生どうしたいのか?
そうだ。自分でしっかり決めよう。

こんなに幅広い選択肢の中で、自由に選べるんだから。

猫と虹を渡っているボクが、ファンタジー小説の主人公なら、同じく進路で悩んでいるボクも、ファンタジーの世界を生きる主人公。

どっちが好みか?

この物語を描いてきたのも、主人公もボク自身。

ボクは楽しい世界を生きよう。猫がしゃべっても驚かない。みんなが自由に自分を表現して、その歓びに満ちた世界を、みんなと分かち合って生きよう。



「最後のお役目だ」

ふと、あの時の猫の言葉が思い出された。
もう既に知っていたんだろうな。

シロが近づいてきて、まるでそのことに賛同するかのような顔して、ゆっくりと瞬きをしてみせた。

今日も。二年前のあの日と同じ、秋の風がこの家のリビングを包み込むようにして流れていた。

おじいちゃんが空に還ってから、ちょうど二年後の日だった。

おばあちゃんは、静かに…なんの前触れも見せず、本当に眠るようにして空へ還っていった。たった一週間前、ボクと先生の誕生日を祝っておいて…。

でもきっとあの時、既にわかっていたんだろうな。

このリビングで風を感じながら涙を流していたおばあちゃんを思い出すと、あの涙が、悲しみの涙ではないことが感じられて…。ボクはちょっとだけホッとした。

きっと今頃、あの星の世界へ戻って、おじいちゃんと再会しているな。

そんな想像をしてみると、二人の足元に、ちょこんと、あの案内猫が寛いでいるのがみえた。

「ふっ」

「なによ、思い出し笑い?」

「なんかさ、おばあちゃん、きっとおじいちゃんと一緒にいるなと思って」

「そうねえ。ほんとにどこまで仲が良いんだか。なにも旅立つ日までお揃いにしなくてもねえ」

「そうだね」

「お墓まいりの手間が省けるでしょって笑ってそうね、ママ」

「笑ってそうだね」

「っていうか、そもそもお墓なんかないのにね」

そう言って母さんは笑った。

やっぱり、母さんも大丈夫なんだろうな。おばあちゃんが息をひきとってから葬式が終わって今の今まで、母さんは涙を見せなかった。

もう、おばあちゃんの姿を目で見ることはできないけれど、これで終わりじゃないことは、教えてもらっておいて良かった。

ボクがあの世界に還ったら、また再会して一緒に笑う日が来る。それまでの間、ボクは今回のボクで生きる人生を楽しみ尽くして、たくさん話を聞いてもらうんだ。

いや…。そんなことしなくても、今もこれからも見守ってくれているんだろうな。

「にゃ〜」

シロがキッチンへ向かいながら振り返ってないた。

「ああ、お腹が空いたんだね。そういえばもうこんな時間だもんな。ごめんごめん」

「父さんも猫としゃべれんの?」

「ええ?しゃべれるっていうか…。いや、気持ちを伝え合うくらいできるだろ」

キッチンに入っていく父さんの後に、ゾロゾロと猫たちが続いた。

「あら」

なんだかその光景があったかくて、ボクと母さんは目を合わせて笑った。

「さ〜て。引越し屋さんに電話しようかな」

「え?誰が引っ越し?」

「えー?私たち三人に決まってるじゃない。今日からここに住むわよ」

「えー?そうなの?」

驚いてみると同時にボクの内側から、ものすごいワクワクしたエネルギーが湧いてくるのを感じた。

母さんに振り回されてるんじゃない。これは、ボクが選んでる人生だ。ボクが創造した現実だ。

そんな強い感覚がボクの中にギュッと芽生えると、九月の風はまた喜んでボクを包んでくれた。


つづく


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