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中華そばを食べに行った話 ①

いつも通りのある日のこと
君は突然起きあがり言った
「今日は徳島に行こう」

今北産業

 いきなり「俺の知らない物語の話」と困惑の方もいらっしゃるかもしれないが、そこはご容赦頂きたい。なんせ本当の話であるし、何よりこれを書き始めているのは7月5日の帰りのフェリーの中である。
 何がどうなっているかはおいおい話すとして、言い出しっぺのA面は横で回復体位をとりつつ転がっている。ご存知の方ももしかするといるかもしれないが、この人は基本的に乗り物に酔いやすいのである。
 とりあえず、話はここしばらくのA面の様子から始めることとする。

リンカーンはアメリカンコーヒーを3杯のんだ

 いや、実際はどうだったかは全く知らないが、なんにせよこれは「鬱」という字の覚え方であり、A面は今まさにそれに苦しんでいる。時々調子の良い日があって、それはそれで嬉しいことではあるが、そんな日は精々2週に1日程度である。いつ抜けるとも分からない長いトンネルの中を必死に走り続けている途中である。

 今日は朝 (昼の12時頃にのそのそと起きてきた) から調子は良さそうであった。先日の台風が結局この地に風雨をもたらさず、そのまま過ぎていった、ということも大きいだろう。3日ほど前からモンスターハンターriseの村クエを進めていたりもした。A面のゲーミングマッスルが、少しづつでも戻ってきているということは、回複の兆しでもある。
 とは言え万全の体制と言う訳でもなく、武器もいつもの笛から繰虫棍に持ちかえ、10分もかからない討伐クエをメインに進めていた。本人曰く「長いクエだと体力が持たない」からであり、そんな状能なので採取クエなどには手がのびていなかった。

 余談だが、A面は地図が苦手な人であり、モンハンでもよく迷っている。逆に私はそこまで地図は苦手としていない。おそらく中高と山に登っていたから鍛えられた部分もあるのだろう。ただ恐らくモンハンにおいては新規刺激への興味の差などもある、と考えられる。と言うのもriseを買ってプレイしはじめた後、私は楽しかったので寝る間を惜しんでひたすらフィールドの開拓につとめていたが、A面は良い子なのでしっかりと寝ていた。

 まぁそれはさておいて、今日はA面の調子が良かった。
 台風一過の空が広がり、太陽が燦々と照らしている、そんな日に調子が良かったのである。
 お外へ行きたくなるのは当然であろう。

獲らぬ狸の皮算用

 行き先は色んな案が出た。例えば東京、大阪、KIXなどである。ブレインストーミング的に昼から行ける所を挙げていたところ、採用されたのが徳島であった。幸か不幸か、現在時刻は12時ちょっとすぎ。次の南海フェリーの時間は13時40分。今から和歌山市駅に向かい,そこから輪行して和歌山港から出るフェリーに乗っても十分に日帰りできる時間であり、輪行なので現地での足もある。かくして、弾丸ラーメン旅行が幕を開けたのである。

 とりあえずのたのたと布団から這い出て,着替える。B面はロードバイクに乗り始めてからずっとビブタイツ派だ。だいたい着替える時はビブを着た後にA面に「フレディ・マーキュリー!」と言ってからインナーを着るが、今日はしていない。とうとうB面も恥という概念を覚えたのだ。
 B面はお日様が照っている夏もだいたい長袖インナーを着るようにしている。A面はいそいそとロングタイツを履いている。ロングタイツのメリットは転んだ時も日焼けもある程度対策できるところである。日焼けは敵,体力を持っていかれるのはしんどい。

 服を着た後は、と書くとそれまで全裸だったような感じを覚えるが、決してそうではない。きちんとTシャツを着て、パンツも履いている。走り始める格好になった後は、と書く方が正確だろう。
 なんにせよ、着替えた後はリュックの中にお金とモバイルバッテリー,救急セットなどを入れていく。A面はこんな時だいたいウエストポーチにCO2ボンベやらメガネやら身分証明書を入れている。
 ちなみにあると意外と重宝するのがメイク落としシートである。例えばチェーンが落ちたけど素手で戻すしかない時,パンク修理したらついでにチェーンオイルが付いちゃった時,うっかりふくらはぎにチェーンリングが触っちゃった時など,油汚れに対してある程度の対処ができるためにお勧めである。ジップロックなどに入れて持っていくか,コンビニで売っているような小分けサイズのものを持っていくといざという時に便利なのだ。

 空気圧のチェック,チェーンオイルの継ぎ足しをしていく。A面のINTENSOちゃんがやや切れかかっているような印象だったからである。
いくらフィニッシュラインの緑といえども限界はある。継ぎ足しつつ「そろそろチェーンを洗わねば」などと考えていた。ちなみにB面はまさかのAZのハンマーオイルを愛用している。なぜかというと、油膜切れまでの間隔が非常に長いからである。その分チェーンが汚れやすく、砂も拾いやすいのが難点ではあるが、雨の中走ったりしても大丈夫な為、ロードバイクを買って以来、チェーンオイルはそれを愛用しているのである。決して「これ評価いいし使ってみよー」と買った1本がまだ使い切れていないからではない……!

 そうしてなんとかロードバイクに跨りひた走り,南海和歌山市駅へと向かう。13時20分台の電車に間に合わなければ計画がいきなりご破算となってしまう。輪行の支度も考えると,おそらく発車15分前にはついておかねばなるまい。真夏を思わせる日差しを受けつつ,いきなりのタイムトライアルが始まった。

忘れ物,そして忘れ物

 何とか15分前に駅にたどり着く。及第点である。ここから急いで輪行の準備をせねばならない。意外と汗をかいているのでできればアンスリーでスポーツドリンクを1Lほど調達したいところである。だが,まずは輪行である。とりあえずサドルに括り付けてある輪行袋を外し,エンド金具を求めてフレームバッグに手を突っ込む。

 が,無い(CV:立木文彦)。

 エンド金具が無いのである。どう転んでもないのである。
 輪行は自立方法によって横型と縦型の2種類に分けられる。基本的には私は縦型輪行がスペース的にも好みである。そのためにはエンド金具と呼ばれるものが必要になる。

 慌ててA面に「やべぇ,エンド金具忘れてきたわ」と伝えると「こっちはいつもの鍵忘れてきた」と返事が来た。A面はcropsの鍵を愛用しているが,B面とは違いフレームバッグに鍵を入れるようなことはしていない。それ故の忘却であろう。

 さて,万事休すといったところであろうが意外とそうではない。エンド金具が無ければ無いで横型輪行にすればよいのであるし,鍵はB面が常日頃からU字ロックとワイヤー錠を1つづつ持ち歩いているので問題はない。
 使っている輪行袋は幸いなことに,というか本当は横型輪行用の袋である。自転車を買い,輪行袋を買って早9年。ようやくこの輪行袋が本来の扱われ方をする日が来たのである。ちなみに使っている輪行袋はOGKのBIKE PORTER 1400である。肩紐も太く,袋自体も頑丈なので好きだが,残念なことに販売終了となってしまっている。

 初めての横型輪行も無事に終わり,輪行準備が終わったところでA面の手伝いをする。やはり輪行は経験がものをいう部分があるため,どうしても慣れないうちは時間がかかるものである。いそいそと手伝い何とか形にする。

横型輪行はハンドルとサドルの3点でバランスを取るので安定はする。スペースは食う。


 そうこうしているうちに発車時間が迫ってきている。改札はICで通り抜けることで物の出し入れが最小限になるため,それで難なく突破する。和歌山港線は7番線なのでえっちらおっちら階段を上り陸橋を超えていく。和歌山市駅が古い駅舎の頃は2階改札から直に陸橋に入れたのだが,それも今は昔。とりあえず間に合うことを目指して階段をよちよちと降りていく。
 ホームにつく頃に立っている駅員さんと目が合う。すると駅員さんは何かを察してくれたのか,無線でどこかとしゃべっている。発車ベルが鳴り始める中,何とか二人とも電車に乗り込み,そうして,電車のドアがぷしゅっと閉まっていった。

 何とか間に合ったことを寿ぐもA面の顔は晴れない。その体躯故に階段でどうしても自転車と段がぶつかってしまう。登りであれば背中に回して前傾姿勢を取ればなんとかなるが,下りはそうもいかない。悩んでいるうちに和歌山港駅に着いた。

 余談だが,和歌山港線は色々あって日本一短い鉄道事業者と関連がある。詳しくは下の記事を読んでほしいが,それといい,紀州鉄道といい,ぶつぶつ川といい,和歌山はどうも「日本一短い」に縁があるようだ。


海は広いな,大きいな

 駅に降り立ち,ゆっくりと階段を下りる。というのも,A面のフレームと階段がぶつからないようにするためである。なんとか下りきり,改札を抜ける。
 和歌山港駅からフェリー乗り場まではやたらと長い連絡通路を通らなければならない。というのも,道路とフェリー用の貨物道路を越えねばならぬからである。急いでいるときにこの通路は辛い。A面の輪行袋を代わりに担ぎ,フェリーのチケットを買いに走ってもらう。往復割引込みで一人当たり4180円,往復4時間かかるとしても1時間当たり1000円ちょっとである。
 熱い中ここまで動いてきたので脱水が怖い。券売機の横の自販機でアクエリアスを2本買う。そのまま船内に乗り込み,フラットなスペースを確保する。乗り込んだのは「かつらぎ」。確か中1の夏に乗ったのも、大学院の時にA面の修論の手伝いで徳島に行ったのもこの船だった気がする。「そうそう、フェリーってのはこうでなくちゃ」と思うような懐かしさ溢れる船内、と言うと聞こえはいいが、要は古いのである。
 輪行袋を置き,A面の輪行袋を肩紐と手すりで固定し,船内の避難経路と救命胴衣を確認する。これはただの安全確認行動である。旅先のホテルなどではなんとなく避難経路を確認する癖はあるのだが、それと同じである。
 まだ冷たいアクエリアスを半分ほど飲んだところで甲板に出る。係留索を丁度外すあたりであった。一度緩めてボラードから外し、それを船側で巻き上げる。この一連の流れはなんとなく旅の始まりを感じて好きなのだ。

係留索を巻き上げる機械が動いてるところはとてもかっこいい。
ここには写っていないが。

 巻き上げられたところで船に戻る。離岸しているのか、風景が遠くなるのを船窓から見つつ、壁際のコンセントにサイコンの充電などをセットする。そして、カップヌードルを食べるかどうか思案した。朝ご飯などはろくに食べておらず、徳島までは大体2時間ほどかかる。それまでにお腹をもたせつつ、ラーメンが入るように調節せねばならない。
 ここで、はたと気が付く。どこにラーメンを食べに行くかを全く決めていない。慌てて調べ始めるもどんどん電波は弱くなっていく。A面と話し合い、とりあえず白系のラーメンを食べることに決め、広大な電子の海に漕ぎ出せなくなったスマホをモバイルバッテリーと繋ぎ、トボトボと日清の自販機に進むのであった。

 ここから先はしばらく省略する。船旅の良いところはゆったりとした時間の使い方ができるところではあるが、逆にぼーっとしているので別段書くことがないのだ。精々書くとすれば久々のカップヌードルシーフードは美味しかったこと、展望デッキに出たら淡路島がよく見えたこと、そして近さ故に電波が入り、行くラーメン屋が決まったこと、カモメが飛んでてなんとなく嬉しかったことぐらいである。
 そして徳島港が近付き、下船となる。

次回予告

スープ、乳化、加水率。
ラーメン的な、余りにもラーメン的な、そんな響きはそぐわない。
豚骨の臭いに導かれ、スープの油に照り返されて、徳島の街角の一つで出会った、本日2食目のアダムとイブ。
これは、単なる偶然か。
次回「銀座」。
衝撃のあのどんぶりを、どれ、すする?


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