[BOOK REVIEW] 『医学・看護論文を読み解いて臨床に活かす方法』(康永秀生先生監,森田光治良先生著)
評者
鈴木 千晴 先生
(聖路加国際病院 副院長・看護部長)
■Evidence-based Medicine/Nursingを
「臨床に生かす!」を大切にした書
臨床現場で患者に安全で最良の看護ケアを行うためには、エビデンスに基づく実践が不可欠なことは、皆さんも当然のごとく理解されていると思う。しかし同時に様々な理由から、困難さを感じることも多いのではないだろうか。私は、エビデンスの活用の正しいプロセスを経験してみることでの学びが、この困難を吹き飛ばす一つの方法であると思っている。日々の実践における疑問や気づきの中から臨床疑問を明確にする。その改善につながる活用可能なエビデンスを探して吟味し、実践に適応してみるというプロセスの経験のことである。
実際に、私の施設ではそのプロセスを半年間かけて学び、看護ケアの質改善を行ってみるというEBPを学ぶ研修プログラムを設けている。その研修では大学教員、認定看護師や修士課程修了者がファシリテーターとして支援しながら、このプロセスを踏む。この本を実際に見て、このプロセスの良きガイド役になってくれる本だと実感した。ただ読み進めるだけではなく、この本を片手に自分が感じている疑問を書きだしたり、PCを使って文献検索をしたりと、順序だててこのプロセスを進めるために有用な本である。そのためのわかりやすい解説も豊富に含まれている。
そして私は管理者なので、学ぶプロセスはもちろんだが、6章・7章を管理者の方にもお勧めしたい。論文読解や研究で得たエビデンスを、組織や周囲を巻き込んでどう臨床に導入し、継続していくかという内容である。エビデンスを実装していくために、管理者としてどのような戦略的な仕掛けや仕組みを作るかのヒントがたくさん含まれている。こういった新たな挑戦には、管理者の理解や支援が大変重要であることは言うまでもない。スタッフレベルだけでなく、管理者の方に戦略を考える良き機会としても活用していただきたい。
本書の著者である森田先生の集中治療室での臨床時代を知るひとりとして、このように「臨床に生かす」を大切にした内容の本の完成に、感動を覚えている。臨床時代に芽生えた種が、こうして成長して大きな成果となったのだという嬉しい気持ちでこの本を手にした。臨床を良く知り、臨床と研究の両方をしっかり見つめ学んできた森田先生だからこその「臨床に生かす方法」がたくさん詰まったこの本を、ぜひ、たくさんの方に手に取っていただきたい。スタッフから管理者まで多くの皆さんによって、この本が臨床の場で生かされ、成果を生むことを期待している。
※『看護研究』第57巻 第2号(医学書院,2024年5月刊行)より転載
◆本書の内容構成については、以下サイトをご参照ください!
◆東京大学SPH(公共健康医学専攻)康永研によるシリーズも
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