新規事業立ち上げ時のプライシングの在り方を考えてみた
シンチャオ!
新規事業だけに関わらず悩むのが価格設定、プライシングです。
フロー型のB2C事業とストック型のB2B事業をどちらも経験してきて、プライシングについては今後のサービス企画をする上で非常に重要な論点で毎度悩んでおります。
ただ、立ち上げ時のプライシングについては、あまり参考になる情報がなかったので、備忘録的に「事業立ち上げのプライシング」についてまとめたいと思いました。
ACV理論のような設計手法はあるものの、事業立ち上げ時には向いてない&理論数値より現場理解に基づいたプライシングが全てと思う(信じている)ので、ざざっとまとめてみました。
プライシングが重要な理由
PLに直接的に影響する
PL(事業計画)を立てる際に、売上計画を算出しますが、売上を構成する要素の中に、単価(Price)があるので、プライシングは売り上げに直結しています。売上の構成は、おおよその事業が、単価*販売数*継続率になりますが、販売数を増やす為の様々なマーケティング活動や施策、継続率を維持あるいは改善するために、CRMなどの概念及び活動が存在します。
しかし、単価はどうでしょうか。付帯サービスなどのアップセルや類似商材などのクロスセルを行うことで、単価の底上げを行うことはありますが、プロダクトやサービスそのものの単価を改善する活動は、単価を下げるか上げるかの二択になります。
そうすると、スーパーの数円単位の値上がりに敏感になってしまうほど、値上げは受け入れられない事象なので、基本的に単価を上げるのはB2BやB2C問わず、NGです。では、単価を下げれるのかというと、事業構造や仕組みが定まっている状態ではほぼ不可能に近く、可能であるならば、まだ世の中に認知されていない事業やスタートアップなどのように、組織や事業が定まっていない状況だけです。
プライシングは、極めて重要で、事業計画であるPLに直接的に影響することがわかるかと思います。
プライシングはビジネスモデルに依存する
先ほど、少し触れましたが、プライシングは事業形態であるビジネスモデルに依存すると考えます。ビジネスモデルが変わると、収益構造や、収益構造を実現するための組織構造は全く別物に変化します。極端な話、飲食店、SaaS事業、EC事業、どれも収益構造が違い、事業を実現するための人員の構成は変わります。
なので、プライシングを変更することは、ビジネスモデルや組織構造にテコ入れを行うことになりますが、テコ入れを行う状況として、下記の3つの状況があると考えます。
記載した3つの状況に応じて、プライシングを戦略的(意図的に)変更する必要があります。
1の状況は、事業仮説案を変更するとき、すなわち、ピボットする時になります。そもそもの根底にある、ビジネス構造(モデル)である、対象者、課題に対する解決策、解決に夜対価を頂く形式、が変わるので、必然的に変えなければ、事業として成立しないです。
2の状況は、事業が大きく成長するタイミングや、市場に受け入れられたタイミングになり、プライシングを抜本的に見直せるチャンスになります。過去に、立ち上げた撮影サービスでも、顧客を発掘できるまで数千円でサービス提供していましたが、今となっては1万円が最安値になっています。
3の状況は、1の補足説明にはなりますが、事業形態や事業状況が変わると、流通方法(マーケティングチャネル)が変化するので、流通チャネルで発生するコストに見合ったプライシングを設定しないと、1年以内にバーンアウトを引き起こします。多くのスタートアップに流通しているVCの資金は、マーケティングチャネルに溶け、知らずの間に資金がなくなり解散と言ったケースはよく聞きます。最低限発生するコストを考慮したプライシングが必要ですが、プライシングのアプローチ方法については、後述していきます。
上記1~3の状況は、一言でまとめるとビジネスモデルに強く依存すると言え、プライシングを誤る=ビジネスモデルを見誤ることに繋がると考えています。
プライシングは提供価値の定量化と同義
プライシングは冒頭記載した様に、売上に直結するので、顧客単位での提供価値を示していることになり、顧客が抱える課題の解決策として、支払うことができる上限もしくは適正の価格になります。
バリューメトリクス(提供価値)と連動しているか
この提供価値を考える際に、バリューメトリクス(価値指標)を明確にする事で、よりプライシングの制度が高くなります。特に、SaaS形式の事業やサブスクモデルに関しては、提供価値とプライスが密接に連動しているほど、売上が上がり安くなります。
例えば、Slackのバリューメトリクスは、メッセージ送受信数になります。メッセージを使うほどビジネス情報がデータとして蓄積し、Slackから他のアプリケーションにスイッチされにくくなります。
そして、メッセージは利用者にとって、最も頻度高く使う機能であり、無料化と有料化の差を「メッセージ数」に設定しています。これは、顧客への提供価値が明確で、提供価値がそのまま定量指標であるバリューメトリクスに直結していて、プライシングへ変換しています。
プロダクトやサービスの提供価値が明確で、定量的な指標として観測できる状態が、最適なプライシングを決定でき、プライシング=定量価値の定量化及び明確化になるので、プライシングが重要になります。
新規事業立ち上げ時のプライシング方法
プライシングが重要な理由を説明しましたが、いざ実際にプライシングを行なおうとすると、どのような切り口で検討するべきか、頭を悩ませました。ただ、B2C/B2B両方の事業立ち上げを行うなかで出た結論が、自社・顧客・市場の3C観点で検討を行うやり方です。具体的な検討方法について解説していきます。
自社都合
自社都合の観点は、プロダクトやサービスを提供する際に発生するコストを起点に考えるコスト・アプローチになります。コスト起点から考えるアプローチは古くからあるので目新しくないですが、顧客単位で発生しているコストをあぶりだすことが非常に重要と考えます。
また、コストを考える際に、変動費と固定費に分けて考えますが、変動の捉え方によって、発生するコストが変わると思います。
会計上では、プロダクトを開発するための人件費やマーケティングを推進するための広告宣伝費は変動費に含まれますが、実質事業運営するには、継続的に発生する費用になるので、固定費と考える必要があると考えます。
実質開発費用以外のサーバー維持費なども固定費になるので、それら固定費を顧客単位で考慮した際に、最低限のプライシング金額が明確になってきます。
例えば、SaaS事業の場合、プロダクトを開発・維持するための人件費、定額で発生するマーケ費用、営業やCS費用を、顧客一人当たりの課金額からマイナスした際に利益が残るかを計算する必要があります。利益が出ないのに、一気に採用を行い人件費を過分に増やして、ソリューションが刺さっていて、売上も上がっているけど、コストが圧迫されてバーンアウトするのも、スタートアップ界隈でよくある話です。
また、1プロダクトで勝負する前提の元、上記の考え方について説明しましたが、既存事業と組み合わせた収益最大化を目指す際も、基本的には同じ考え方になります。そのために、まずは既存事業で発生している1顧客単位で発生しているコストや1顧客の課金金額などを過去のデータを抽出して、まずは算数で分析する必要があります。既存事業のとの組み合わせの場合は、片方の事業のみで高単価高収益構造の場合は、比較的設計しやすいのではと思います。
顧客都合
顧客都合の観点は、顧客への提供価値を明確にして定量化した数値をベースに考える手法です。この手法を実現するのは、まず、顧客の解像度を究極まで高くして、B2Bであれば課題に発生している業務負担を時間と金銭で定量化する、B2Cであれば、顧客が行っている作業の負担を、時間と金銭で定量化する必要があります。
例えば、B2B領域で1プロダクトの提供を前提としたプライシングを検討する場合、対象顧客の業務を分解して、各業務で発生している時間と人件費をベースにコストを可視化していきます。
顧客課題を定量化(業務時間/月*業務頻度/月*業務人件費単価/月)した数値が、実際に顧客(対象企業)が支払っている上限コストになるので、最上限価格が明確になります。とはいえ、算出した最上限価格をそのまま売値に反映させるのではなく、プロダクトによって削減できたり効率化できる定量数値>販売価格の公式条件が絶対であり、上限価格に該当します。
市場都合
最後に、市場の都合の観点として、競合価格を参考にする考え方です。市場で既に存在している競合製品の価格を参考にするので、至極真っ当な感じで、実際に、新規事業の支援先の担当者に「プライシングをどのように検討しようとしていましたか?」と聞くと、「競合が●●円程なので、●●円くらいと考えていました。」と返答されます。しかし、この手法でプライシングを決めることは避けるべきだと個人的には思います。
先ほどお伝えした様に、ビジネスモデルやビジネスモデルを実現する人員構成によってプライシングは変わりますし、事業の状況によっても大きく変わります。
例えば、競合となる製品やサービスの運営主が、資金調達したばかりのスタートアップであれば、急速的な事業成長を求めらる状況なので、もしかしたら低価格で市場のシェアを奪うやり方が前提存在する可能性もあります。
参考程度に情報抽出するのは良いですが、自社製品のプライシング材料が、市場(競合製品)となっているのは、相当危険です。
新規事業立ち上げに適切なプライシング手法の優先順位
プライシングのアプローチ方法として、上限価格、下限価格、市場価格の3つがありましたが、検討するべき順番について解説していきますが、1.2.3の特性について、まず説明していきます。結論としては、「2→1→3」の順序になります。
プライシングをベースに収益性を判断する
プライシングは収益性を検討するうえで、最も重要な変数になり、プライシングを適正に決める事ができなければ、現実的な収益性モデルの計画を行うことはできません。
収益性を検討するには、①投資した金額を利益が上回るまでどれくらいの期間が発生するのか(=累積損失投資回収期間)、またその投資コスト、②単月黒字までの期間、またその投資コスト、そして③事業のインパクトをどれだけ興すことができるのか、3つの論点が必要になります。
累計損失期間がどれくらいの期間発生するか
累積損失投資回収期間は下記の様に、横幅を示す定量になります。コストに関しては、最大で発生する投資金額になるので、票の下半分の深さの総量が累計投資金額になります。そして、グラフ上半分の長さの総量が累計利益になるので、上半分の総量>1=下半分の総量の方程式を満たす際に発生するのが回収期間になるイメージです。
単月黒字までの累計損失金額がいくら発生するか
累計の損失回収期間の次は、単月黒字化するまでにどれくらい発生するのかも算出します。利益を早く出して、キャッシュフローの流れを構築することは、非常に重要になるので、早ければ早いほど、良い数値になります。
事業インパクトがどれくらいあるのか
最後に、3-5年の総合計期間で、どれくらい利益として残り、どのようなビジネスデータ(情報)が蓄積されるのかの事業インパクトのざっくりとした数値シミュレーションが必要です。この領域は所謂PL(事業計画)になりますが、今回の記事では割愛させて頂きます。改めて、ビジネスモデル別の事業計画シミュレーションシートについて、解説しようと思います。
リプライシングの際に注視するべきこと
プライシングは、一度決めたら終わりではなく、これまで説明した様に変化させる必要もあります。リプライシングを行うことで、変化する事業を構成する変数が何であるかを把握する必要があるので、解説していきます。
リプライシングによって変化する変数は何か
プライシングはビジネスモデルに依存するので、プライスが変われば、対象顧客も変える必要が出てきます。対象顧客を変えることは、提供する機能やメリットが少し変わってくるのですが、この少しの要素が、顧客割合の構成を大きく変える重要な要素になると考えます。例えば、大手企業向けのサービスを運営している状況で、市場のシェアを拡大する際に、対象顧客が大手企業から中小企業向けに変化した際に、顧客数は増えるが、1社当たりの顧客金額が下がり、短期的に売上が下がる可能性が考えられるます。また、大手企業と中小企業に求められるサービスの機能やメリットが少し違う可能性があります。そうすると、大手企業向けに開発した機能やサービスが、中小企業にとっては必要不十分な結果となり、システム関連のプロダクトであれば、機能改善に発生するコストや維持費だけが積み重なり、利用されなくなる。「技術負債」の状態に陥る可能性があります。
リプライシングを行うことで、売上や課金額などの自社へのインパクト、市場シェアなどの市場へのインパクト、顧客が変わることによる顧客へのインパクト、これらの3つを常に検討して、リプライシングのアクションを起こすことが重要です。
最後に
プライシングに関して、事業立ち上げを行う中で思考した過程と内容を言語化してみました。正直、プライシングのプロではないので、断言できる箇所は少ないですが、事業立ち上げを思考する過程で、考えるべきポイントは整理することができ、改めてプライシングの難しさと複雑性について理解を深めることができました。
継続してプライシングに対する解像度を事業立ち上げの実践を通じて高められればと思うので、少しでも参考になったと感じる方は、いいねを推して頂けると、嬉しいです!!!!!!それではカモーン!!!
プライシングに関して深く考えたく、今後読みたい書籍と論文です↓↓
https://www.gakushuin.ac.jp/univ/eco/gakkai/pdf_files/keizai_ronsyuu/contents/3104/3104-24ueda.pdf
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