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#野生の月評

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「月評」スピンオフ企画。新建築社刊行の雑誌『新建築』『住宅特集』などの掲載作品・論文にまつわる感想などの記事をまとめていきます。「#野生の月評」とつけてご投稿いただけると嬉しいで… もっと読む
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#コラム

Expo'70

 2019年3月9日発売の「JA(THE JAPAN ARCHITECT)」113号は日本万国博覧会、通称大阪万博が開催された1970年5月号の「新建築」と同年5-6月号英文版「JA」を再録している。  冒頭の丹下健三氏と川添登氏の対談が興味深い。  丹下は言わずと知れた日本建築界の巨人である。広島ピースセンター、代々木体育館、東京カテドラル聖マリア大聖堂など、日本近代建築の名作を連投し続けた。  川添は「新建築」編集長を務めたこちらも日本近代建築史を代表する建築評論家

疲れる美術館と、疲れない美術館

 東京・品川にある原美術館が2020年12月末に閉館する。ちょうど週末に訪れた矢先の発表だったので、すごくショックだった。竣工から80年が経って建物の老朽化が進み、美術館として一般公開するには適さない状況らしい。ここはもともと個人邸だったわけだが、お金があれば買い取りたいし、ホステルにでもしたいくらいだ。閉館後は別館でもある群馬県の「ハラ ミュージアム アーク」あらため「原美術館ARC」にその拠点を移すそうだ。  ハラ ミュージアム アークってどこやねん、というわけだが、実

作品のない美術館と、海へと続く長い道

 初めて豊島を訪れたのは2016年。3年に1度の瀬戸内国際芸術祭が開催された年だった。岡山の宇野港からフェリーに乗り、1時間ほどで島に着く。僕らが訪れたのは芸術祭の間のシーズンだったので、人はそれほど多くなかった。  もちろん一番の目的は豊島美術館。2010年に建築家・西沢立衛がデザインした美術館だ。エントランス棟でお金(現在鑑賞料は1540円と安くはない)を払って、カフェスペースの脇を抜け、森の中を歩くと大きなドーム状の空間が姿を表した。この空間自体がこの美術館唯一のアー