YOASOBI「海のまにまに」のこと。
こんにちは。桜小路いをりです。
久しぶりに、感動のため息しか出せないような、素敵なMVを見させていただきました。
それが、昨日公開されたYOASOBIの「海のまにまに」です。(たぶん、この記事で3回くらいリンクを貼ると思います。)
私は、もともと辻村深月さんの原作小説『ユーレイ』も大好きで、「海のまにまに」の楽曲そのものもすごくすごく好き。これまで、何度も聴いていました。
そして、このMVを見て、さらに「海のまにまに」が大好きになりました。
今回の記事では、盛大に原作小説のネタバレをしながら考察していきます。
ぜひ原作小説を読んでから(……!)この記事に戻ってきていただければ、とても嬉しいです。
辻村深月さんの原作小説『ユーレイ』は、家出をした女の子が、海辺の町で「幽霊のような女の子」に出会う物語。
ここで、簡単に結末を含めつつ、ネタバレしてまとめてしまうと、このお話は、「自殺しようと家出した女の子」を助けるために、幽霊の女の子が、とある人間の女の子に引き会わせてあげる、というものです。
MVの随所に、それを示唆する描写があります。
例えば、冒頭の、何かが水の中に落ちるような音と共に、泡の中から蝶が現れる描写。
蝶は、「霊魂」を意味したり、「死者の魂が宿っているもの」とされているそうです。
「彼女」が「死」という取り返しのつかない場所にいることは、覆しようがない。
そして、主人公の女の子は、電車に乗って家出をし、その場所に向かおうとします。いわば、「生」と「死」のあわいにいる状態。
対して、主人公に「花火をしよう」と持ちかけてきた女の子(作中、彼女は正体が分かるまで「幽霊」とされます)は、紛れもなく「生」の場所にいます。
この絶妙なバランス感覚で成り立っている小説を、MVでは本当に見事に映像に落とし込んでいて、私は「く~っ!」となりました。
このMVで、「生」は「火」、「死」は「海の中」として描かれているように感じます。とすると、電車は、「生」から「死」に向かうための乗り物、という感じでしょうか。
感動が止まらなかったのは、電車の中の描写と、水の中の描写です。(ぜひMVを流しながら、確認しつつ読んでいただけると嬉しいです。)
ひとつめは、MVの中ほど、蝶に導かれるようにして主人公が「幽霊」のような水色の女の子に向き合うシーン。
水色の女の子(本物の幽霊の女の子)が「来ちゃダメ」というように首を振るところがあると思います。車両の反対側では、炎がゆらめいていて、主人公がはっと我に返るような姿が、もう……すごく素敵でした。
「死」を描くことによって「生」を際立たせる、って、かなり王道な表現だと思います。それを、こんなに鮮やかに、芸術的な美しさでやってのける凄まじさと言ったら……感動が止まりません。
そして、もうひとつは、MVの最後のほう、水の中を落ちていく主人公に、もうひとりの女の子が手を伸ばすシーン。ふたりの手を、水色の手がそっと繋げてあげるところでは、胸がいっぱいになりました。物語の核の部分が、このシーンにぎゅっと詰まっている気がします。
また、「水の中」と聞くと、私は、小学校のときのプールの授業を思い出します。水の中に潜って、水面を見上げると、射しこむ光がすごく綺麗に見える、あの感じ。それが、このMVを見て思い出されました。
時間の流れもゆっくりになっているような気がして、音も遠くなって。あの感じが、ちょっとだけ『ユーレイ』の主人公にも繋がるように思います。
「死にたい」気持ちって、基本的には一過性ではあるけれど、でも、すごく強い感情で。もし一歩でも間違えたら、取り返しがつかなくて、主人公は作中、間違いなくその瀬戸際にいます。
「海辺」というロケーションは、その危うさまで的確に表現している気がします。この曲のイントロも、どこか不穏に感じる暗めの音です。
それでも、湿気ってしまっているんじゃないか、と思っていた花火に火が点いたとき、思わず笑顔になったのは。
彼女が、「点いた!」と叫んだのは。
主人公の中に、「死にたい」気持ちがあったのは、本当なのだと思います。でも、彼女はきっと、その想いと同じだけ「生きたい」という気持ちも、持っていたのではないでしょうか。
それが、「死にたい」の暗さや重さのせいで、見えなくなっていただけ。
花火の眩しさは、その鮮烈な光は、「生きたい」という気持ちを照らしてくれた。
私は、そんなふうに感じています。
また、「海のまにまに」では、その感情の機微といいますか、想いの揺れ動きや変化を、すごく繊細に感じる気がします。
ひとつの想いが、揺れて、震えて、溢れて、という動きが、ダイレクトに心に伝わってくる。
先日カラオケで歌ったのですが、感情移入し過ぎて危うく泣きそうになりました。
今回は、辻村深月さん×YOASOBIという、私にとって、大好きな作家さん×大好きなアーティストさんのコラボ。
今まで以上に楽しみにしていたのですが、もう想像以上の素晴らしさで、ニマニマが止まりません。
YOASOBIは、どこか陰のある雰囲気の曲や、淡いグレーのベールが全体を包んでいるような楽曲もお得意だな、と、すごく思います。
底抜けに明るい雰囲気ももちろん素敵だけれど、どこかに陰が落ちているからこそ、明るい部分がより鮮やかに見えるところが、私はすごく好きです。
そしてそれは、辻村深月さんの作品にも、どこか通じるところがあったり。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
今回のMVも、緻密な伏線と美麗なイラストと映像、素敵な演出が最高で、ついつい長々と感想を綴ってしまいました。
特に、主人公の女の子が出会った「幽霊のような女の子」、私が想像していた通りのキャラデザで嬉しかったです。
これから、たくさん見返したいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。 私の記事が、皆さんの心にほんのひと欠片でも残っていたら、とても嬉しいです。 皆さんのもとにも、素敵なことがたくさん舞い込んで来ますように。