令和ロマン高比良くるまの「1,000万円で劇場を作ります」発言について、真剣に考えてみる


 『M-1グランプリ2023』で優勝した令和ロマンが、決勝戦前に受けていた取材で、「もし優勝したら、賞金1,000万円の使い道は?」と訊かれた時の受け答え。

高比良くるま「あなたはお金持ちなんだから、うれしくないでしょう? 決勝決まって、お父さんは何か言ってた?」
松井ケムリ「僕、本名は浩一なんですが、『コウちゃんおめでとう!』と喜んでくれました」
くるま「僕らいつも、賞金もらったら僕に全額くれるっていうノリをやっているんですが、1,000万円どうします?」
ケムリ「え、あげる」
くるま「今、全額もらえるって決定したので、掘っ立て小屋でいいので1,000万円で劇場を作ります。東京には劇場が足りていないので」

 なお、実際に優勝したあとのテレビ出演では、「クッキー工場を作ります」などと、言うことが変わっていたりしたので、本気ではなかったのかもしれない。が、この「劇場を作ります」という発言に、僕はひっかかった。というか、興味が湧いたのだった。
 なので、別にお笑いのライブ事情に詳しいわけではないが、詳しくないなりに、考えてみた。詳しくないゆえに、いろいろ間違っている可能性も高いですが、ひとつの考え方だと思って、読んでいただければ幸いです。

 まず。東京って劇場が足りていないの? よしもとの小屋、あんなにあちこちにあるのに。
 と、僕のような素人はまず思ってしまうが、たとえば、東京のライブハウスの数と比較すると、彼が言う「足りていない」の意味がわかってくる。
 渋谷や新宿や下北沢に、あんなにいっぱいライブハウスがあるのはなぜでしょう。
 僕は1991年の春からそれらの街を知っているが、ライブインも屋根裏ももう閉まっていた当時の渋谷には、クラブクアトロとラ・ママとエッグマンと、できたばかりのON AIR(今のO-EAST/duo/O-CREST/東間屋の場所)くらいしかなかった。あとTAKE OFF 7か。あ、ジァン・ジァンもまだあったな。バンドでは音を出せないハコだったけど。モロ師岡のひとりコントを観に行ったことがあります。
 下北沢も、1991年の10月にシェルターがオープンして以降はどんどん増えたが、それまでは、屋根裏とロフトくらいしかなかったように記憶している。
 新宿も、ロフトとアンチノックとJAMとACB(アシベ)、あと日清パワーステーションくらいしかなかったのではないか、と思う。ロフトがまだ西口にあった頃です。

 という状態だったのが、30年でこんなに増えたのはなぜか。ライブを観たい人が、ではなく、やりたい人が増えたからだ。だからライブハウスという商売が成立しやすくなったのだ。というのが、僕の考えである。
 チケットノルマを払って、もしくはハコを貸し切るおカネを出して、ライブをやりたい、というアマチュアが、あれだけの数の小さなライブハウスの経営が成り立つくらい増えた、ということだ。
 僕がそれを意識したのは、渋谷のレコードショップ(CDもアナログも含む)がどんどんなくなっていった時期(2000年代中盤〜後半)に、ライブハウスはむしろ増えていることに気がついた時だった。CDが売れなくなったとか、バンドは下火だとか言われているけど、やりたい人はむしろ多くなっているんだな、と。

 で。話をお笑いに戻すと、よく知られているように、令和ロマンは学生お笑い出身である(慶応大学のサークル「お笑い道場O-keis)。
 つまり、アマチュア時代があったわけで、ライブをやりたいアマチュアにとって、都内によしもとの劇場が何軒あろうが、関係ないですよね。
 規模で言うと、昔渋谷にあったシアターD(100席)や、2021年にK-プロが西新宿に作ったナルゲキ(143席)や、SMAが千川で運営しているBeach V(びーちぶ/80席)や、人力舎が長年新人イベント『バカ爆走!』を開催している新宿Fu-(新宿長谷ホール/80席)みたいな会場がもっとあればいいんだろうけど、今挙げたのはどれも、プロの事務所が使っていたり、持っていたりするハコである。
 あ、でもそうか、俺が知らないだけで、「学生お笑い御用達」「アマチュア専用」みたいなハコ、きっとあるんだろうな。
 と思って調べてみたら、「中野Studio twl」「早稲田小劇場どらま館」「下北スラッシュ」「シアターミネルヴァ」(これも下北沢)など、いくつか出てきたが、バンドのライブハウスに比べると、非常に数が限られている。
 いや、それはそうでしょ。バンドと比べるとやっている人口が少ないからでしょ。とは思うものの、だとしても、もうちょっとあってもいいんじゃないか、という気もする。
 高比良くるまが言っていたのはまさにそこで、学外に出てライブ活動をしたくてもアマチュアが出られるハコがない、バンドみたいにいっぱいあればいいのに、ということなのではないだろうか。

 じゃあなんでやらないんだろう。東京・大阪・名古屋・福岡・沖縄でライブハウスを展開しているLD&Kとか、都内を中心にスタジオとライブハウスを何軒も経営しているリンキィディンク・グループとか、やってもおかしくないですよね、お笑いのライブハウスも。
 特に、音楽のライブハウスよりもトークライブハウスの方が多いロフト・プロジェクトなんて、やっていない方が不思議なくらいである。
 でも、そんなプロフェッショナルな方々が、まだそこに気がついていない、ということは、ないだろう。気がついていても、やらない理由があるのだろう。なんでしょう。
 うまくいっても儲からない。もしくは、非常に儲けが少ない。と、結論したのだと思う。
 なるほど。でもそれ、大きな、ちゃんとした会社がやるには利益が少ない、ということなのであれば、個人で小規模に、だったら、できないこともないのではないか。
 そうか。じゃあ、やろうかなあ。
 昔、ある人(音楽業界人)に「ライブハウスやればいいのに」と言われた時は、「なんで俺が?」「大変そうだし」「そのわりに儲からなさそうだし」「何よりも、これ以上作ってどうする」と思って、全然そういう気になれなかった。
 が、「必要としている人たちがいるのに足りていない」のであれば、話が変わってきますよね。
 音楽のライブハウスみたいに、お客をスタンディングで詰め込むわけにはいかないから、キャパの上限は限られる。でも、音楽のライブハウスだって、満員になるのは金土日だけ、他の日はスカスカで座席を出した場合よりも少ない人数、くらいのところ、多いし。
 あと、音楽のライブハウスほどの音響システムや防音は必要ないし、照明もシンプルでいいはずだ。その分、設備投資は少なくてすむ。
 あ、お笑い専門であっても「劇場」にするんじゃなくて、ライブハウスと同じように「飲食店」として届出を出した方がいいかも。ワンドリンク必須にできるし。
 場所はどこがいいかな。ほんとは下北沢か新宿がいいんだけど、家賃高いし。でも、あんまり都心から外れるのもなあ。大学がいくつもある街の方がいいかも。神保町とか池袋とか……それも家賃高そうだ。
 待てよ、中央線の西の方も大学が多いよね。三鷹〜国分寺〜国立〜立川〜八王子にかけてのあたり。じゃあ三鷹とか? 人が来づらいか。なら、吉祥寺と高円寺と中野……いや、やっぱり家賃高いな。その中だったら、高円寺は、まだ安いかな……。
 とりあえず、下北沢の2軒、行ってみようかな。うちから近いし。にしても、気がついたら下北沢には2軒ある、っていうのが「なるほど」というか「やはり」というか、これも、「昔なら演劇を始めた人がお笑い芸人の方向に進んでいる」ということの表れなのかな……。

 などと妄想が膨らむ、2024年の年始なのだった。
 あ、妄想しているだけで、やりません。「うちでやろうかな」という、そのあたりの業界の方がもしいたら、どうぞ。

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