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鉱山野郎のうた-音楽が残ることについて

昔鉱山で歌われていた或る曲を復活させてほしい-

 手書きの譜面で渡されたのは「鉱山野郎のうた」という日鉄鉱業株式会社の社歌だった。戦後まもない日本には多くの鉱山が存在し、その周辺には街がつくられ、人々の活気が確かにあった。しかし、出稼ぎの男たちが労働の最中に声高らかに歌った唄も、時流により相次いだ閉山と共に詠み人しらずとなる。半世紀が経ったいま、忘れ去られたメロディーを蘇らせ、これから鉱山で働く人々へ繋ぎたい。広告代理店担当者の話は熱っぽかった。

福島県の鉱山跡地

鉱山野郎たちの汗ほとばしる曲を、彼らを支える女性の視点で-

 渡された資料をもとに原曲をイメージする。ダイナマイトで爆破した穴を掘り、逞しく石を運ぶ男たち。彼らが叫ぶのは、自らを鼓舞する隆々かつ荒々しい唄だ。一方で、鉱山を下りた山間の街には帰りを待つ姿が見える。家族であり、友人であり、おおらかな自然でもある。僕は大胆に「鉱山野郎のうた」を作り直すことにした。応援歌調のメロディーを部分的に活かしつつ、テンポをぐっと下げる。浮かび上がった間(ま)で、力強い旋律を包み込むサウンドに仕上げた。
出来上がった音楽は映像美も相まり、柔らかく女性的な雰囲気を醸すことに成った。時を経て「鉱山野郎のうた」は生まれ変わったのだ。

かつての鉱山周辺に残っていた鳥居
森の中にある階段跡が暮らしの面影を残す

音楽が残ることについて-

 Spotifyでは毎日6万曲がアップロードされている。つまり、新曲があっという間に翌日には膨大なコンテンツのうちのひとつになる。リッチな時代と言えると同時に、ひとつずつの音楽が深く内面に肉薄する前に移り変わっていくよう感じるのは、僕だけではないだろう。「鉱山野郎のうた」は5年前に作った。原曲を遡れば70年以上残ったことになる。当初の歌詞も曲もすっかり変えてしまったが「鉱山野郎のうた」は留めた。もとより無形のものである音楽を、形を変えて継いでいくことに、本質的かつ新しい表現方法ではないかと、廃校になった校歌などを眺めながら思ったりしている。

「鉱山野郎のうた」はこちらで視聴できます:

歌詞:

  1. 親の代から鉱山ぐらし 北はサハリン南はタンバオ 
    流れ歩いたこともある  一目見たときゃ威勢はいいが
    本当は淋しい 本当は淋しい 鉱山野郎

  2. 見上げた鉱山(やま)に心焦がし でっかく生きるとスーツを脱ぎ捨て 
    ショベル動かせ石を掘れ  縁の下にゃ誇りがあるさ
    大きく生きてゆく 大きく生きてく 鉱山野郎

  3. 山が色づき季節を悟る こだま呼び合う第二の故郷(ふるさと) 
    なんもないけどぜんぶある 並ぶ笑顔が里の宝さ
    大きく育てよ 大きく育てよ 鉱山野郎


原曲の歌詞:

  1. 親の代から鉱山ぐらし 北はサハリン南はタンバオ 
    流れ歩いたこともある  一目見たときゃ威勢はいいが
    本当は淋しい 本当は淋しい 鉱山野郎

  2. 想い出したよ北國酒場 去ったあの娘の行く方を想い 
    グラスもつ手にペチカが燃える ままよ女はどこにもいるさ
    男一匹 男一匹 鉱山野郎

  3. 浮世はなれた切羽の奥で 今日も咲かそう白金黄金
    ドリル片手はダテぢゃない ダイナマイトに命をかけて
    ドンとゆこうぜ ドンとゆこうぜ 鉱山野郎

  4. 夜霧つめたいベンチにひとつ かすむライトも淋しく凍る
    オレの心でとかしてやろか もって生まれた気っぷの良さ
    女泣かせサ 女泣かせサ 鉱山野郎

  5. 流れ流れて下北尻屋 どこに住もうとみぢかい命
    かけるハッパが心意気 遠くはるかなあの山合いに
    今日も生きてる 今日も生きてる 鉱山野郎

【平原慎士/ Shinji Hirabaru】
ミュージシャン、プロデューサー、作曲家(Musician/Producer, Tokyo)
2022年度金沢市民芸術村レジデントアーティスト
UnlikeSoundProduction代表

UnLike Sound Productionホームページ:
http://unlikesound.com

Youtube:
https://youtube.com/channel/UCg_Kb7o6eRcxr2X1MB3WtSg

note:
https://note.com/shinjihirabaru

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