リチウムイオン電池のリサイクルの将来

〇電池市場の現状と将来はどうか。


 電池の種類は大きく分けて3種類に分かれる。車載用、定置用、小型民生用である。2020年の容量は、車載用で146GWh、定置用で38GWh、小型民生用で82GWhになり、シェアでは車載用が多い。
 それが2035年になると容量は車載用で2,070GWh、定置用で165GWh、小型民生用で193GWhになる。圧倒的に車載用の伸びが大きく、車載用を中心に大きな市場拡大が見込まれる。EV自動車のニュースがいつも話題になり、そのリチウムイオン電池のことがいつも取り上げられるのはこのような背景があるからである。EV自動車の行方がどうなるかで、リチウムイオン電池の市場、つまりはその素材の動向も左右される。リチウムやコバルトの産出国が限られるため、これらをどのように調達していくかが国家や企業にとって重要になることも需要なポイントだ。
 

〇リチウムイオン電池の市場はどうなっているのか。


 2020年のリチウムイオン電池のシェアをみると車載用で128GWh、定置用で26GWhである。2020年の電池全体の市場が車載用で146GWh、定置用で38GWhであるから、リチウム電池の市場が電池市場のほぼ全体といってもよい。そしてEV自動車の需要の増加にともなってリチウムイオン電池の市場=電池市場の全体のマーケットを押し上げていく構図になっている。
そのなかでも車載用のリチウム電池のシェアをみると日本勢が21%、中国が37%、韓国が36%である。日本勢はパナソニックのほぼ1強、中国はCATLやBYDが主なプレーヤーである。韓国ではLGES、サムソンSDIなどだ。主戦場である車載用で日本のパナソニックは孤立奮闘しているが、中国勢と韓国勢が強い。
 

〇リチウムイオン電池の生産能力はどう変化するか。


 生産能力でみると、2020年は日本で20GWh、米国で47GWh、欧州で66GWh、中国で182GWhである。しかし2025年の予想では日本で39GWh、米国で205GWh、欧州で726GWh、中国で754GWhになる。
 中国と欧州の生産能力の伸びが圧倒的に多い。日本はあまり伸びず、今後生産能力は相対的にシェアを大幅に縮小させていくことになる。日本の存在感がリチウム電池の市場でも薄れていくのは残念である。
中国と韓国の伸びはすごい。実際、CATLは今後20~80GWhの生産能力をもつ場を建設する予定があり今後の生産能力は60GWhから600GWh程度に拡大していく計画である。LGも30~100GWh生産能力をもつ工場を建設予定で将来的には250GWh以上の能力を確保する計画である。かなりアグレッシブに投資をしていくのがわかる。
これだけ世界中で市場が拡大し、それに並行して生産能力を拡大させるには素材の確保が重要である。方向性としては、①素材をより安価で調達しやすいものに変えていく、②生産過程で発生する不良品や一度使用したものを再利用するあるいはリサイクルする、の2つがある。なかでもリサイクルはサーキュラーエコノミーの流れの中でも特に重要になってくる。
 

〇リチウムイオン電池の種類と素材価値はどうなっているのか。


 リサイクルを促進するにはそこに素材価値があるのかが重要である。そもそも価値がなく、有価で販売できないとなれば民間企業でリサイクルが事業としてなりたたないからである。
素材価値は、正極材の活物質に含まれるコバルト、ニッケルが最も高い。原料の中でもこのコストが高いので、この素材を以下に安全に調達するか、コストを抑えるか、あるいはこれらの代替として安い素材で同じ性能をもつ素材を探すかが重要になってくる。これから述べるリサイクルをすることで素材を繰り返し使用することも重要になるので、リサイクル技術も注目されているのはそのためである。
 リチウムイオン電池にはいろんな種類があるが、素材価値が高い種類には、Ni-MH(ニッケル・マンガン)、LCO(コバルト系、もっとも価値が高い。スマホなどに使用)、NCM(三元系、コバルト・ニッケル・マンガン)、NCA(ニッケル系、ニッケル・コバルト・アルミニウム)などいろいろある。この中でもLCOにはコバルトが20%程度含まれもっとも素材価値が高い。
 一方で素材価値が低いものにはLFP(リン酸鉄系)などがある。中国市場でもっとも普及しているタイプのものだ。これらはリサイクル処理などをする場合、日本では逆有償で処理することになってしまう。
 

〇リサイクルの方法はどうなっているのか。


 多くのリサイクル方法が開発されており、毎週世界のどこかで新しいイノベーションが起こっているような状況である。ただ、現在既に普及しているリサイクル方法では、①「ブラックマス」と呼ばれるリチウム、ニッケル、コバルトなどが濃縮されたものを取り出す工程(乾式)と、②そこからさらに各元素を取り出して前駆体など製品レベルにまでリサイクルする工程(湿式)の2つに分けられる。
 日本では①のブラックマスまでを取り出すリサイクル企業が一般的である。理由は、湿式工程までリサイクルをするには、現時点で一般的に普及している技術で事業採算を達成するには、月間1万トン程度の数量を扱わなければならないからである。日本でこれほどの数量を扱うことは不可能に近い。また、北米や欧州では月間1万トン程度の取り扱いができる工場が建設されているが、これも本当にこれだけの数量が回収できるのか、これだけの数量が回収できるまで資金が持つのかなどいろんな問題がある。つまり、LIBリサイクルの事業はまだ発展途上な部分が多いのが現状である。
 

〇リサイクルの将来はどうか。


 ダイレクトリサイクルの研究開発も進んでおり、二酸化炭素の排出やコストの観点からいろんなベンチャー企業が商業化に向けて開発していたり、関連する研究論文が発表されている。いずれにしても素材価値が大きな割合を占めるリチウムイオン電池は、今後リサイクルをどのように取り込んでいくかがリチウムイオン電池普及のためのキーとなる。これからもリチウムイオン電池のリサイクルに注目していきたい。

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