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第63話 「脱皮」

(松本市民タイムス リレーコラム 2020年12月9日掲載分)

前回のコラムにも書きましたが、我が家と我が工房は11月始めに蓼科に引っ越しをしました。

「引っ越し」といっても実際は荷物を運んだだけで、その後しばらくは何度も松本に戻って工房の片付けや引き渡しをしたり、住んでいたマンションの売却手続きをしたりとせわしない日々が続きました。

蓼科工房の荷物の整理や機械類の整備が終わって実際に楽器作りを再開できたのはやっと12月1日。10月の半ばに最後の楽器発送を済ませてからほぼ1ヶ月半、引っ越し関連に手を取られていたわけです。

引っ越しというのは誰しも1度2度は経験があると思いますが、何しろひたすら手間がかかる作業です。ダンボール箱に入れてみると何十もの数になり、いままでどこにこれだけの物がしまい込まれていたのだろうと呆れる始末。しかも引越し時にかなりの物を断舎離したはずなのに移転先でもまた混乱の日々が続きます。そしてあれだけ思い切ってものを捨てたのに、今度は新居に合わせてまた色んなものを買い込んで、これからの新しい生活が便利になるようにと手間をかけます。

不要になったものを脱ぎ捨て、そしてまた新たに成長していくという意味では、脱皮みたいなものなのかなぁ、と思ったりしました。ヤドカリも自分の成長に合わせて引っ越すと言いますものね。

我がセイレン工房もこの1年で大きく舵を切って目指す方向を変えました。
今までは、「せっかく注文がたくさんあるのだから、人を雇ってせっせと作り、売上を伸ばそう!」という、企業にとっては当たり前の右肩上がりを目指していました。

ところがです。「今年も全力疾走で行きます!」と毎年のように年賀状に書いていた僕が右肩上がりに疑問をいだき、少しアクセルを緩めようと思ったのです。お客さんも大事だけど、自分の生活や生き方も大事だと。残った人生の時間で出来ることの優先順位をつけようと思ったのです。

物事は面白いもので、決めてしまえばその方向に動き始めます。

大きな決断というものも大事だけれど、実際は毎時間毎分毎秒の小さな決断の積み重ねが人生を変えていきます。
去年の自分が下した漠然とした決断が、今僕の目の前にある現実に結びついていると思うと、1年前の自分を褒めてあげたいと思います。もちろんその前の35年間を頑張った自分にも。

世の中はコロナに明け暮れた1年でしたが、あなたの今年はどんな1年でしたでしょうか。
来年は「こんなご時世」なんて言わなくていい年になって欲しいですね。

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