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第46話 「木が美酒を育む」

  (松本市民タイムス リレーコラム 2019年4月24日掲載分)

もう今から15年以上前の話ですが、ウイスキーメーカーのサントリーが使い古して不要になったウイスキー樽を販売していることを知り、樽材を購入したことがあります。

その樽材は「山崎」という素晴らしいウイスキーを育んだ古樽で、僕は何とかそれが楽器にならないものだろうかと考え、夢中で取り組みました。
音楽好きでウイスキー好きな僕にはぴったりなプロジェクトだったのですね。

板材の幅は狭いもの広いものと様々。そして樽の形に弓なりに反った板は製材し直すのも困難で、従業員が帰った後の工房で幾晩も木屑だらけになりながら木工機械と格闘していました。

長年ウイスキーを育んだ樽材は、解体され乾いた後でも強い芳香があり、鉋で少し削っただけでも酔いそうなほどに工房内がウイスキーの香りで満たされ、僕は嬉々としてその手間のかかる作業を続けていました。

ところで皆さんはなぜウイスキーの熟成に木の樽が使われるかご存知でしょうか。技術の進んだ現代では、酒の醸造や熟成にステンレスのタンクを使うケースも多くなっているそうです。でも、ウイスキーは必ず木の樽、しかもオークと呼ばれる木だけが使われます。日本で言えばナラの木ですね。

今でこそ独特の深い琥珀色や芳醇な香りで知られるウイスキーは、誕生したばかりの18世紀頃は無色透明な強い酒だったそうです。政府のウイスキーへの課税から逃れるため、密造者達がシェリー酒の樽に詰めて隠している間に、気がついたら琥珀色と香りが付きまろやかな味になっていたという、怪我の功名が生み出したのが今のウイスキーの元になっているようです。

オークという木にはリグニンやポリフェノールといった成分が他の木よりもたくさん含まれています。オーク材で作った樽に出来たばかりの透明なウイスキーを詰めて熟成させることでこういった成分が溶けだしてくるのですが、更にこれらの成分が出やすくするのが樽の内部を焼いて焦がす工程です。

実は最近再び樽材を手に入れることができて新しくオーク樽ウクレレを製作したのですが、今回僕が製材した樽材も内側が黒焦げになっています。この焦がし具合はウイスキーメーカーによって違い、それが熟成後の製品の味の違いにもなっているそうです。人間というのは本当によくこういったことを考え出すものだなと感心するとともに、木が持っている力にも驚くばかりです。

このウイスキーオークのウクレレは、7月末まで松本駅改札横のコンコースの展示スペースに並べています。ご鑑賞いただければ幸いです。

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