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仕覆

きみの手が布を縫いあげ
紐を組み合わせて袋を仕立てる
ちいさな器をしまうための袋
器をつつみ
仕舞い込み
使うたびに
紐をほどき
はだかの器はいつでも
きみの手のひらのなかにある

たとえば、ブルーのガラスの猪口
酒をつぐ
稲穗の夢のような
雷鳴をひめた清酒が注がれた猪口は
しばしの湿りのなかで息を吹き返し
きみの唇に触れる
飲み干されるたびに
生と死を繰り返しながら
猪口はふたたび
きみの袋のなかで眠りにつくことになる

手のひらのなかのちいさな猪口
きみが生まれるまえから
だれかに使われてきたのだろう
いつかきみが死んでも
うつくしい猪口は
だれかの所有物となり
さまざまな唇に
あたらしい酒をうつすだろう

袋のなかで紐に結ばれたまま眠る器は
きみを知らないだれかによって
いつか
その紐を解かれ
手のひらにそっと置かれるだろう
きみの愛した形のままで
眠るはだかの器として


(仕覆を作る友人Yに捧げます。写真はYより。)

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