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この十一月に乾杯を

この町にも
十一月十二日と十三日はやって来た
誰が息をのんだのか、その日に
原油まみれの黒い海鳥のことを憶えてるだろう
言葉にまとまらないものを
なけなしの箱に納めた
みんながしくじったことを
古道具屋も古本屋も店仕舞いする
がしゃがしゃと音をたてて
花屋も煙草屋も珈琲屋もパン屋も
あるがままの世界の中で
呼吸しようとしてもうまくいかない
古い町の川 
左岸と右岸を歩いたことを思い出す
富士見通りからロータリーを
時計回りに旋回して旭通りに出た
その突き当たりを
右に折れて学園通りを西に向かう
大学通りにぶつかると
駅に戻る道すがら
フランス菓子の店でバゲットを買っておこう
一本だけでも
人の気配がない舗道をとぼとぼ歩く
この町の
十一月十二日と十三日を
マンハッタンのクールな爺さんカメラマンのように
颯爽とはいかない
安物の万年筆を振り回して
この光景を
青い輪郭に閉じ込めよう
ひかりが集めるニュースがうるさい
ぼくの手のひらの中の世界
淋しい光線に封印される
アイ・ミス・ユーと
きみに送信するよ
来月には陽気な聖歌隊が帰って来る
イルミネーションが点灯されるこの町に
永久に失われた数字
四十三と
百二十九を暗算してみる
頭のいい学童たちよ
整列してぼくの話を聞いてくれ
この十一月のことを
死んだだれもかれもが甦る
にぎやかな十一月に
乾杯しよう 乾杯しよう 乾杯しよう

」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

◎国立ランブリング「創作ノオト」
2015年11月。12日にはベイルートで、13日にパリで。
ISISのテロ。それぞれ43人と129人が亡くなったという。
現在において、世界の中で詩を書くことは、
野蛮か無神経なことかもしれない。
どんな詩人もしくじった戦争も革命も自然災害も。
それでも、詩を書きつづけるぼくの国立の11月に、この詩を置いて。
福間健二をまねて、あらためて言おう。
「悲しいことなんか、何もないよ」。
この11月に乾杯しよう。

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